第13章 どのようにするのか? 政府再編成の異なる道  (原文 .399 
これまで述べてきたように、合衆国政府の国家安全保障の機構は、今なお冷戦に勝つために作られ機構である。今日、合衆国は全く異なった世界に向き合っている。少数の非常に危険な敵に向き合うのに代わって、これまでの伝統的な国家の境界を越え、素早く、想像力に富んだ機敏な対応を要求する多数の見えにくい挑戦者たちに立ち向かっている。
 第二次世界大戦時代の男女は、1940年代から50年代の挑戦に立ち上がった。彼らは国家を守る事が出来るよう、政府を再構築した。それは今や9/11を経験した世代の仕事である。これらの攻撃は、異なる時代に由来する仕事の手法では、当然ながら十分ではないことを強く示した。アメリカ人は、もはや存在しない過去の世代に設計されたシステムに、追加やその場しのぎの調整などを行うべきではない。
 我々は、政府組織の重大な変更を勧告する。我々は、組織図の質よりも、人々の質がより重要であることを知っている。9/11の物語の最も悲しい側面は、多くの公務員が並外れた努力で可能性の限界に立ち向かったにもかかわらず、その多くが報われなかった事だ。優れた人々は不完全な組織を克服することが出来る。しかし、そうしたことが必要とされる状況はあってはならないことだった。
 合衆国は資源と人材を持っている。政府は、彼らの努力を総合して、より効果的に統合するべきである。我々はそのために次の五つの主要な勧告の実施を提案する。 
・イスラム主義テロリストに対する戦略的情報と作戦計画を、国外と国内の堺を越えて「国家テロリズム対策センター:National Counterterrorism CenterNCC]」に統合する。
・情報社会を新しい「国家情報長官:National Intelligence DirectorNID]」のもとに統合する。
・テロリズム対策に取り組んでいる多くの従事者と彼らの知識を、従来の政府組織の境界を越えるネットワークによる情報共有システムに統合する。
[情報の]質と説明責任を改善するため、議会の監視を統合し強化する。
FBIと本土防衛職員を強化する。  

13‐1 国外と国内に分離した取組みの統合  (原文p.400

協同行動 
 9/11攻撃についての論評の多くは「失われた機会」として、11章で再検討した。これらはしばしば「監視リストへの記載」「情報共有」あるいは「点の結合」といった問題として性格付けられている。我々は11章でこのようなラベル貼りは狭すぎると説明した。彼らは症状を記述しているだけで、病気そのものについてではない。
 我々が示した各々の実例の中で、だれ一人、事件の管理に明確な責任を負った者はいなかった。また関連する情報を政府のどこかから引き出せる者も、(海外および国内の)官庁を越えて責任を割当て、事件の経過を追跡し、障害を解決できる水準まで速やかに持ち上げる者もいなかった。責任と説明責任は拡散した。
 関係官庁は時には協力したが、そこで行われた協力は、協同行動とは異なるものだった。複数の官庁が協力する時、一方が問題を定め、それについて助けを求める。彼らが合同で行動する際、問題と行動の選択肢は、初めから異なって設定される。異なる背景から合同した各々が、事件の分析と、管理を共に行う。
 我々は聴聞会の中で、いつも証人に質問した:誰がクオータ・バックですか? 他の選手は所定の位置にいて、その仕事をしていますか? 彼らがチームとして働くように、役目を割り当て、プレーを叫んでいるのは誰ですか?
 9/11以来、これらの問題は解決されていない。ある面では協同作業はより良くなっているが、ある面では悪くなっている。テロリズムとの戦いの努力は、その量とエネルギーにおいて、多くの通常の官庁の境界から溢れ出ている。姿勢は変わった。担当職員は、9/11の誤りを避けようと敏感になっている。彼らは情報を共有しようと試みている。彼らは回覧する ―大統領にさえ― 特に報告された脅威については、たとえ重複してもそうする。
 これらすべての努力の部分的な寄与もあって、協同行動への挑戦は増強されてきている。9/11以前、CIAのみがアルカイダに直面する主導的官庁であった。FBIは、ほんの二次的な役割だった。国防総省と国務省の任務は、さらに挿話的だった。
・今日でもCIAはなお中心にいる。しかし、FBIも他の司法機関と共に、より積極的である。
・国防総省の取り組みはいまや膨大である。統合司令部のうちの三つは、四つ星[大将級]の将官に 率いられ、テロリズム対策を 最優先の任務としている:特別作戦司令部と中央軍司令部(両者はフロリダに司令部を持つ)および北部軍司令部(コロラドに司令部を持つ)である。 ・新しい国土安全保障省は、国境および交通安全保障についての厖大な資源を、国土の脆弱性の分析そ の他の任務と結合する。 
・国務省は、我々が12章で記したように、多くの対外政策の任務を統率する。
・ホワイトハウスでは、国家安全保障会議(NSC)に並立する大統領補佐機構として国土安全保障会議
  (
HSC)が加わる。
 これまで、我々は協同作業を推奨する二つの理由を述べてきた;協同計画の長所と、統合の努力を確実にする責任者を持つ有利性とである。さらに第三の理由がある:充分な能力を持つ専門家の単純な不足だ。絶対に必要な専門家の限られた集団 ―例えば、技量のある対テロリズム分析者や語学専門家― は枯渇しつつあった。
 テロリズム分析の第一の責任は、2003年創設の「テロリスト脅威集約センター」(TTIC)に割り当てられてきた。それはCIA本部内に本拠を置き、多くの官庁の代表がスタッフとして配置され、中央情報長官[DCI]に直接報告している。CIAには、その他の情報「融合」センターも入居している:テロリスト対策センター[CTC]は、9/11以前、このような「かなめ」となる役割を果たしていた。第三の主要な分析集団は国防総省にある「国防情報局」(Defense Intelligence Agency )である。第四の、本土の脆弱性[の分析]に専念している部署は、国土安全保障省にある。FBIは長い間欠いてきた分析能力を建設する過程にある。そして、それはまた「テロリスト選別センター」(Terrorist Screening Center)を持っている。  
 合衆国政府は、このように重複した努力に対応する余裕がない。十分に経験を積んだ専門家を全体に行き渡らせることは出来ない。重複[した組織]は、既に存在する国家安全保障局[NSA]のような多忙で一元的な情報収集先に、さらに追加の要求をする。

統合情報と統合行動の結合 
 「賢明」な政府は、敵を総合的に見るために、すべての情報源を集約するだろう。集約されたすべての情報源の分析は、さらに多くの情報を提供し収集する方策を決定する。しかし、テロリズムの分析が本来の任務である「テロリスト脅威集約センター」[TTIC]は、管理や作戦の権限を持つことを正式に禁止されている。そのため中央情報長官[DCI]に報告する以外、いかなる作戦実体の一部ともなり得ない。
 政府は、すべての情報源の情報分析から得られる問題の統合管理を、二つの方法で扱おうと試みている。
 ・第一に、特定の問題に主導的責任を有する官庁は、協力を得るために、自身の省庁間組織や合同対策本部[task force]を形成してきた。たとえばCIAの「テロリスト対策センター」は、情報社会全体から連絡官を募集している。軍の「中央司令部」は、自身の省庁間センターを持っており、助力を必要とするすべての官庁から、連絡官を募集している。FBIは、行動が必要な時に他の官庁と協力する「合同テロリズム作業班」[JTTF]を84地域に持っている。
 ・第二に、合同作戦計画の多くはホワイトハウスに提出され、NSCスタッフが担当する。ホワイトハウスの国家安全保障スタッフは(NSCおよび新設の「国土安全保障評議会」(Homeland Security Council)のスタッフ双方で)9/11以後50%以上増加している。しかし、職員達と話した後の我々の印象では、これらの増員されたスタッフは、連日の会議や、毎日の脅威の情報への対応、共同の作業などに追われている。
 NSCスタッフはオフイスに溢れているにもかかわらず、いまなお執行機関として機能するための、スタッフの配分も、スタッフの資金の供与もなされていない。3章に述べたように1980年代には、憲法上、一般の監督機構から隔離されていたホワイトハウスのスタッフが、直接作戦に関与するといういくつかの問題が起きた。1990年代、リチャード・クラークはこれらの官庁で、時々訓練を試みた。時には成功したが、しばしば摩擦を引き起こした。
 しかし、より厄介で重大な危険は、NSCスタッフが日々の業務に消耗し、より大きな政策について大統領に助言するために必要な時間と、仕事から離れる時間と距離を見つける余裕がほとんど無いことである。それは、法案の議会通過に必要な立法上の援助や、地域の戦略的計画の立案と実施の追跡、さらに12章で討議した問題の公表などの重要で新しい提案のために働く時間が、ほとんど取れないことを意味している。
 作戦の調整の仕事の多くが官庁、特にCIAに残っている。そこでDCIテネットの主席補佐 (chief aids)たちは、政府の日々の業務の調整のため、ほとんど毎日、省庁間会議を運営している。DCIは、政策を作ることはなく、その実施を監督するだけだと主張した。テロリズムに対する闘いにおいて、このような区分はますます不自然に見える。その上、DCIは政府の作戦の中心的調整者となっているので、すべての地位の役割、特に分析官の長としての役割を行う事はより困難になっている。
 政府の現在構成されている方法では、問題は殆んど手に負えないものとなっている。業務権限のラインは、拡大している行政部門に及び、彼らは納得のゆく理由で[その既得権を]保護さている:DCIは海外のCIA職員を指揮している;国防長官は他者に軍の指揮権を与えることはないだろう;司法省は逮捕状請求の決定責任を放棄しないだろう。その結果、各々の省庁は彼らの任務を遂行するために、自身の情報機関を必要としている。彼らが、法的、政治的に権利を与えられた、あまりに多くの鋳鉄製の煙突付のストーブを持っているので「煙突を破壊する」ことは困難だ。
 ラムズフェルド長官は、1986年のゴールドウオーター-ニコルス法の制定を思い起こし、より良い統合能力達成のために、各々の軍は「現在のいくらかの縄張りと権力と特権を放棄」する必要があったことを、我々に気付かせてくれた。「今の行政部門は、ほとんど二十年前の四軍の『ストーブ煙突』のようだ」と彼は言った。彼は「より強力で迅速、効率的な政府の協同作業のために、既存の縄張りと権力の一部を放棄する」よう各官庁に頼むことが妥当なのではないかと思っていた。他の主な職員たちも非公式に同様の考えを述べた。
 したがって、我々は新しい機構を提案する:文民に指揮される対テロリズムの統一した連合司令部である。戦略情報と合同作戦計画は結合するべきだ。
 統合参謀本部議長のために働くペンタゴンの参謀本部スタッフは、情報はJ-2、作戦はJ-3,全体の政策はJ-5の各部長directorate)によって扱われている。我々の構想は、J-2J-3の機能(情報と作戦計画)を一つの官庁に結合することである。この際、全体の政策調整は国家安全保障会議(NSC)に保持される。  
 勧告:我々は「国家テロリズム対策センター(NCTC)」の設立を勧告する。それは既存の「テロリスト脅威集約センター(TTIC)」の基礎の上に設けられる。国家統治組織の古い鋳型を破って、NCTCは合同作戦計画と情報統合のセンターとなるべきである。そこには各官庁の出身職員がスタッフとして配置される。NCTCの長は、センターに割当てられた人々の業績を評価する権限を持つべきである。
 ・このような統合センターは、軍の統合統一指令部の創設を導いたのと同じ精神で、或いはCIAおよびいくつかの宇宙防衛部門を組織して形成された「国家偵察局」(National Reconnaissance Office)のような初期の国家機関のように発展させるべきである。
  NCTC・情報NCTCは、地球規模の国家横断的テロリスト組織の情報を、国外および国内の全ての源から集積し、戦略的分析を統率するべきである。それは(敵の能力と意図を合衆国の防衛と対応力と比較する)総合評価も開発する べきである。それはまた警報を提供すべきである。これらの業務は、CIAFBI,国土安全保障省その他の部局及び 官庁の業績に頼るべきである。それは合衆国内と国外での[情報]収集要求を関係機関任務として課すべきである。
・情報機構(J-2)は、現在あるTTICの構造の上に作られるが、国の情報センターとして、NCTCの中に明確に区別されて残るべきである。戦略的分析と基本的評価に責任を持つ、イスラム主義テロリズムについての政府の第一位の知識バンクとして、現存するCIAのテロリズム対策センターとDIA[国防情報局]の合同情報作業版・テロリズム戦闘部JITFCT(*)に存在する分析能力の重要部分を吸収するべきである。
  (*)Joint Intelligence Task ForceCombatting Terrorism
  NCTC・作戦NCTCは合同計画を実行するべきである。作戦の責任はその計画を主導する官庁;国務、CIAFBI、 国防総省とその戦闘指令部、国土安全保障省その他の官庁に、割り当てられるだろう。NCTCは、これらの業務は担 当官庁に任せ、作戦の実施を直接指揮すべきではない。NCTCは、その実施を追跡する;それは国外と国内の区分を越え、また省庁の境界を越えているか、事件を追って計画を更新しているか等を観察し、事態の進行に合わせて計画を更新する。
・合同作戦計画機構(J-3)は、TTICの機構の中では新しいものとなるだろう。NCTCは、CIAその他の政府 内の部局で行われている、類似の業務に頼ることができる。同様に、合衆国内の州および地方の知識豊富 な職員にも接触する事ができる。
    NCTCは政策決定の主体となるべきではない。その作戦と計画は、大統領と国家安全保障会議   の政策指示に従うべきである。 

仮想の事件を考えてみる。NSAが、テロリスト容疑者がバンコックとクアラルンプールに旅行していることを発見する。NCTCは、各人の身元と考えられる目的地を分析するため、統合情報資源 ―そこにはNSAの対テロリズム熟達者も含んでいる― に頼るだろう。この分析により、NCTCはこの事件の管理を組織し、計画を作るだろう。いくつかの省庁の代表者の能力と、異なる経験に頼って任務を割り当てる。割り当ては海外のCIA,合衆国の入国を監視している国本土安全保障省およびFBIに対して行われる。もし軍の協力が必要であれば、特別作戦指揮部はこの作戦に対する適切な構想の開発を依頼される。NCTCは事件の進展の追跡、導き出された計画の確認、蓄積された情報から警報を発することなどに責任を負うべきだろう。NCTCは活動で集められた情報を確認し、イスラム主義テロリストの個人、組織および予想しうる攻撃方法などを、政府の組織上の記録の一部とすることに責任を負うべきだろう。

 どの場合にも、参加した官庁は、上級職員にその官庁が何を要求されているかを理解させなければならない。もしその官庁の長が反対の場合、また問題が簡単に解決されない場合、役割と任務についての不一致を国家安全保障会議と大統領の前に持ち出すことが出来る。

 


 
NCTC・権限NCTCの長は大統領によって任命され、
閣僚級の主席補佐官代理(deputy head of a cabinet department)と同格であるべきだ。NCTCの長は国家情報長官[NID]に報告する。新設する事務所は大統領の閣僚事務所に置かれることを我々は推奨する。それによって NCTCの長は、間接的に大統領に報告することになる。その任命は上院によって承認され、彼または彼女は、他の法 定の大統領事務所職員、たとえば合衆国貿易代表のように、議会に対し宣誓すべきである。
・名目のみ大きく実力が小さな存在となる運命を避けるために、NCTCの長は、テロリズム対策に重点を置 いた部局や 省庁の作戦部門を率いる人物の選定にあたって、同意する権利を持たねばならない。それは、特に「テロリスト対策センター」の長、FBIの「テロリズム対策部」の長、国防総省の「特別作戦司令部」および「北部軍司令部」指令官、国務省のテロリズム対策調整官である。NCTCの長は、また大統領のテロリズム対策予算設定にあたって、行政管理予算局長とも、共同して作業するべきである。   
・統合計画のために、ある官庁が業務の管理を維持しながら、権限を引き渡した先例はある。国際的な情況 の中で、NATOの指揮官は他国の軍隊に割り当てられた指揮系統上の権限を得ているだろう。合衆国の統 合司令部では、指揮官は複数の単位を、一つの軍に属するように作戦を計画する。各々の場合、正式に あるいは非公式に、統合指令官の権限の限界を決定する指針が作られている。 
 NCTCのもっとも深刻な不利益は、その最大の長所の裏返しである。イスラム主義テロリズムとの戦いは非常に重要であるため、それを管理し責任を持つ権限の明らかな集中は、あまりに多くの力を一極に集めることになるに違いない。提案されたNCTCは、他の官庁の活動計画の権限も与えられるだろう。法律または大統領令によって、このような部署の権限の範囲を定めなければならない。
 NCTCは、官庁間の政策論争を取り除いてはならない。それらは、さらに「国家安全保障会議[NSC]」に持ち込まれるだろう。我々は、ホワイトハウス内部の協力を改善するため「国土安全保障会議[HSC]」の存在は間もなく「国家安全保障会議」に統合されるべきだと信じている。NCTCの設立は、NSCスタッフが大統領を補佐し、部局を越えた政策決定を助けるという核心的任務に集中することを助けるに違いない。
 我々は、これは確かに新しく困難なアイデアだと認識している。なぜなら、ラムズフェルド長官が予見したように、我々がNCTCに勧告した権限は、実のところ、強大な官庁に「より強力、迅速かつ効率的な政府の統合した取組みと交換するために、彼らの縄張りと権限の一部を放棄する」ことを求めることになるだろう。国境を越えたイスラム主義テロリストと対抗するために、合衆国政府が、二十一世紀の世界を取り扱うために必要な、より柔軟な管理モデルを形作ることが出来るか否かが試されるだろう。
 変更に反対する論議の一つは、国家は戦争中で、その流れの中で再編成をする余裕はないというものだ。しかし、1940年代から1950年代のいくつかの主要な革新は、戦争の最中に実施された。そこには統合参謀本部の創設や、さらには「ペンタゴン」自体の建設などが含まれる。国はイスラム主義者テロリストとの闘争が終わるまで待つことが出来ないことは確かだ。
 「奇襲、それが政府にふりかかった時、それは複雑で、拡散し、官僚的なものとなりがちである。そこには責任の無視だけでなく、貧弱に定義された責任、あるいは何をしたら良いかが判らない曖昧に委任された責任を含んでいる」。このようなコメントは四十年以上前になされた。パールハーバーについてであるNote 6。我々は、将来、別の委員会が別の攻撃について書きながら、この報告書の引用が適切だと再発見しないことを望む。

                       
目次へ
13・2 情報社会内部の努力の統合   (原文 .407
 本章第1節で、我々はテロリズムへの対応を集中して論じた。すべての情報源からの情報を分析し、その分析を統合作戦計画にいかに結び付けるかを検討した。この節では、我々はテロリズム対策の問題から一旦引き下がる。我々は、テロリズム対策だけでなくより広範囲な国家安全保障の課題について、政府が資産を管理し情報能力を構築するよう適切に組織化されてきたかどうか、過去数十年にわたり振り返る。

 変化の必要性 
 冷戦の期間中、情報官庁は、ソビエト連邦その他の敵対国によって出動した数千の軍事目標 ―戦車やミサイル― などを追跡し、数えるといった絶え間のない業務に頼ることは無かった。各々の官庁は、その特定された任務に集中していた。自身で情報を得、それを公式の完成した報告として共有していた。国防総省が生まれ、技術的情報収集の主要機関として君臨した。情報資源[情報提供者]は、数年にわたる、ときには十年を超える挑戦に対応し、その異動期間は次第に長期化した。
 その結果生じた情報社会の組織を、我々は三章でまとめた。その概要は次の様である。

合衆国情報社会のメンバー

中央情報長官事務所:そこには情報社会管理担当中央情報次官事務所、同スタッフ、テロリズム脅威集積センター、国家情報評議会、その他の情報社会事務所を含む。 

中央情報局(CIA):人材の収集、全情報源の分析および先進的科学技術を実行する。

国家情報機関:

 ・国家安全保障局(NSA)[電子的]信号の収集と分析を行う。

 ・国家宇宙情報局(NGA)[空撮]映像の収集と分析を行う。

 ・国家偵察局(NRO)情報収集用宇宙システムを開発、取得、発射する

 ・その他の国家偵察プログラム

 各省庁の情報部局

 ・国防総省:国防情報局(DIA

 ・陸、海、空軍、海兵隊の情報部門

 ・国務省:情報調査局(INR

 ・財務省;テロリズム・資産情報局

 ・司法省:連邦捜査局 (FBI):情報・対テロリズム・防諜部

 ・エネルギー庁:情報局

 ・国土安全保障省;情報分析・インフラ防護局(IAIP)、

          沿岸警備隊情報局

 
 情報社会の再編成の必要性は、9/11の前および後から明らかになっていた六つの問題から発生した。
・統合情報作業を実施する場合の構造的障害:国家の情報は、いまなお母体となる官庁の収集規定の周囲に体系化されており、統合的な任務のためではない。集積された全素材の分析の重要性は何ものにも替えがたい。それなくして「点を結ぶ」ことは不可能である。一つの要素であっても、情報の全体に関連しないものはない。
  対照的に、国家防衛の組織化にあたり、1986年のゴールドウオーターニコルス法は、現地での統合作戦のための「統合指揮計画」を作り出した。軍 ―陸・海・空・海兵― は組織化され、訓練され、彼らの任務を達成するため の隊員と戦闘単位(unit)を備える。そして彼らは、中央軍(CENTCOM)指揮官のような統合戦闘指揮官に隊員や戦 闘単位として任命される。ゴールドウオーターニコルス法では、士官が昇進するためには、彼らの[所属する]軍の外部に勤務することを要求している。国防総省の文化は変えられ、その集団の考え方は、特定の軍への奉仕から「統合」へと移動し、作戦はより統一したものとなった。
・共通基準と国内と国外を越える演習の欠如:情報社会の指導部は、海外で集めた情報を、合衆国内で集めた情報と共 に保管することが出来るようにするべきだ。その作業は、それがどこで行なわれるにせよ、収集、加工(たとえば翻 訳)、報告、共有そして分析について共通の品質基準を守って行われる。情報についての、全員の基準となる共通の セットは、統合活動をさらに良く行うことが出来る専門的なグループを作り出すことができ、彼ら独自の業務についての思考を越えるものとなる
・国家の情報能力の分断された管理:CIAはかつて我々の国家情報能力の「中央」だったが、冷戦の終了により、国家 の映像および信号情報の能力の利用については、国防総省内にある三つの国家機関:「国家安全保障局」「国家宇宙 情報局」「国家偵察局」に対する影響力を減らしてきた。1991年の湾岸戦争から学んだことの一つは、正確な戦争 状況の把握についての国家情報システム(特に衛星)の価値であった。その戦争以降、国防総省はこれらの部局を適 正に軍の再編成の中に取り入れている。その再編成を指揮するのは、9/11以後、議会によって設けられた情報担当 国防次官である。このような予期しなかった展開の結果は、国防総省による技術的システムの膨大な[予算]要求を 生じ、このような技術的資源の配置と使用について、DCIには僅かな影響力しか残されていない。
・優先度の設定と資源の移動についての能力不足:官庁は、彼らが何を集めるか、あるいはどのように集めるかによって編成されている。一方、収集の優先度は国家的である。DCIは資源[人材]の移動について選択が困難だが、官庁を超えて再配置に取り組む力を持たなければならない。
・多すぎる仕事:DCIは現在、少なくとも三つの仕事を持つ。彼は一つの特定の官庁;CIAを運営することを求められ ている。彼はまた、情報社会という省庁の緩やかな連合体を運営することを期待されている。彼は政府にとって第一の分析官として当てにされている。証拠を選別し、直接大統領に首席情報補佐官として概況報告を行う。最近のDCIで、この三つのすべてをなし得たものはいない。通常失敗するのは情報社会の運営である。最良の場合でも、DCIの 現在の権限が弱いため、困難な業務である。多くの事をしようとしても、DCIは、しばしば彼の持つ権限さえも使うことが出来ない。
・あまりに複雑で秘密である:幾十年にわたって、情報社会を取りまく官庁と規則は、事実上公衆の理解を拒んで深部に沈潜してきた。現在、情報社会には15の官庁及びその一部がある。この社会とDCIの権限は、長期の学習者のみが理解できる判り難いものとなっている。最も基本的な情報である、幾らの金が実際に情報社会全体と、その内の特に重要な構成要素に割り当てられているかは、公衆の目から覆い隠されてきた。
 現在のDCIは、情報社会の業績に責任を負っているが、いかなる官庁の長や幹部職員にとっても必要な三つの権限を欠いている。(1)財布の紐の管理(2)上級管理者の任命と解任(3)情報施設と職員に対して基準を設定する能力
 CIAを除く官庁に対するDCIの唯一の予算についての権限は、種々の官庁の予算要求を調整し、議会に提案する一つの案にすることである。この15の情報各局の要求を含む全体予算は、15に分割して大統領と議会に提出される。
 議会が情報社会の資金割り当て案を通過させると、資金の大部分は情報の支出の秘密を保つため、国防総省[予算]に隠される。従って上院と下院の情報委員会が情報社会の予算を委員会で決定しても、最終的な予算の見直しは、予算委員会の防衛小委員会で扱われる。これらの委員会は情報に関する下部委員会を持たず、要求の見直しは少ない職員で行われる。
 CIAとその他の国家情報機関 NSANGANRO の支出予算は国防長官に与えられる。国防長官はCIAの金はDCIに移管する。しかし[残りの]国家情報機関の金は[国防長官から]直接支払われる。 FBIの国家安全保障機構向けの金は、商務省、司法省、国務省に割り当てられ、司法長官のところに行く。 
 また、DCIは大部分の情報社会の上級管理者の雇用と解雇の権限を持たない。国防総省に入っている国家情報機関については、国防長官は、大統領に任命される管理職の推薦にあたって、DCIの同意を求めなければならない。しかし長官は、この同意なしに大統領への推薦を提出してもよい。DCIは職員を解雇できない。DCIは、FBIの国家安全保障機構の長の任命についても少しの影響力しか持たない。彼はDCIと協議のうえ司法長官によって任命される。

統合業務をより強い管理と結合する
 我々は、情報部門改革の課題について、多くの勧告を受けている。他の委員も同じ立場に立ってきた。考え深い法案が提出されてきた。最近のものは、下院情報委員会議長ポーター・ゴス(共和党・フロリダ)による議案で、その他のものは少数派メンバーのジェーン・ハーマン(民主党・カリフォルニア)によるものである。上院では、上院議員ボブ・グラハム(民主・フロリダ)、ダイアナ・ファインスタイン(民主・カリフォルニア)も同様に改革の提案を導入している。過去の試みは失敗した:大統領が支持しなかった;DCIが、国防長官が、またはその両者が反対した;ある提案はメリットがなかった、などによってだった。我々はこれらの経験を取り入れ、すでに他の人々によって開発されてきた多くのアイデアの中の強力な要素を借用する。
勧告:現在の「中央情報長官」の立場は、二つの主要責任範囲において「国家情報長官」に置き換えられるべきである:(1)合衆国政府を横断する特別に重要な問題について、国家情報センターを監視する。(2)国家情報プログラムを管理し、それに寄与している官庁を監視する。
 第一に、国家情報長官は、国家情報センターが、主要な問題について、政府全体にすべての情報源からの分析を提供し、情報作戦を計画しているか監視する。
 ・このような問題の一つは、テロリズム対策である。この場合、その中心は、我々が先に提案した「国家テロリズム対策センターNCTC]」内部の情報の統一体(正式にはTTIC)であるべきだと信じている。それは、我々が先に述べた作戦管理ユニットと並置され、両者が大統領府のオフイスの中で、NCTCを構成する。他の国家情報センター、―たとえば対核拡散、犯罪および麻薬、中国― は、その最も適当な 部局や官庁に入るべきだろう。
 ・「国家情報長官」は、大統領の首席情報補佐官として、現在のDCIの役割を維持するだろう。我々は、 大統領が国家情報センターの局長director)たちを直接訪問することを期待する。それにより大統領は、彼らが責任を持つ全情報源の分析を提供される。そこで、その報告と対照的な視点から提供される国務、国防、国土安全保障、司法その他の官庁の長官の助言を秤にかけ、評価する。
 第二に「国家情報長官」は国家情報プログラムを管理し、情報社会の構成要素である官庁を監視する。
 (組織図参照.原注) 
 ・「国家情報長官」は、国家情報についての統一された予算を提出する。予算は国家安全保障会議によって選ばれた優先度を反映し、技術的情報収集と人的情報収集、および分析との間で適正なバランスを保つ。長官は、国家情報のための支出額を受け取り、その資金を該当する官庁に、予算に従って配分する。さらに(1990年代の対テロリズム予算のように)国家情報機関の間で、新しい優先度に合わせて資金を再編成する権限を持つ。国家情報長官は、CIADIAFBI情報局、NSANGANRO、国土安全保障省の情報分析およびインフラ保護局長その他の国家情報機関を統率する個人を承認し、指名を大統領に提出するべきである。
・「国家情報長官」は、構成機関の鍵となる地位にある三人の次官(deputies)の助けを得て、この国家的 取組みを管理すべきである。彼らは、それぞれ構成する官庁の鍵となる地位にある。
  ・海外情報:CIA長官
  ・国防情報:国防総省情報担当次官(under secretary) 

  ・国土情報:FBI情報担当副長官(executive assistant director  または
    国土安全保障省情報分析・インフラ保護担当次官(under secretary
  他の情報社会の官庁は、この三つの分野について、彼らの業務領域内で協力する。特に同じ建物に入っている部局 あるいは省庁は、現在援助している省庁に協力する。
 国防総省組織との類似に立ち返ると、この三人の次官は ―陸、海、空、海兵のリーダーのように― 組織を掌握し、人々を訓練し、国家情報センターによって立案された作戦を遂行する。
   そして、戦闘指令官が国防長官に報告するように、国家情報センターの幹部(director ―たとえば反核拡散
   、犯罪および麻薬、その他―
は「国家情報長官」に報告することになるだろう。                    





情報管理の統一の成果
(原報告書に基き作図)





(*1)National Information Center:[情報の]共同収集と分析を管理する―例(illustrutive)

(*2)NICを支援する官庁(agencies support/staff the Nat'l Information Center)     


・国防総省の軍情報プログラム
―統合軍情報プログラム(JMIP)、戦術情報・関連活動プログラム (TIARA)― は、その部署の責務部門として残るだろう。
・「国家情報長官」は、教育と訓練の基準を確立する人事政策を設定し、国家情報センターおよび官庁の枠 を越えての 任命を容易にするだろう。また「国家情報長官」は、データ共有を最大化するために、情報 共有と情報技術の政策を設定し、それと同時に、情報を安全に保護する政策も設定するだろう。
・現在、あまりに多くの省庁が変化に対して「ノー」と言う機会を持っている。「国家情報長官」はNSC首脳委員会に参加して、省庁間の優先度の違いを解消し、主要な論争を大統領の決定に委ねるようにするべきである     。

 
「国家情報長官」は「大統領府オフイス」に入るべきである。その職員は比較的少ない数百人で構成される。彼らは上院で承認されて議会で宣誓し、CIAにある既存の情報社会管理
オフイスに入る。
 
 [情報]社会全体を管理するため「国家情報長官」はさらにサービス機能を用意する。NCTCを監視する責任の一部の例外を除いて「国家情報長官」は国家情報の消費者:大統領とその政策決定補佐官、国務長官、国防長官、国土安全保障、司法長官を助けるべきである。
 我々は、政府の管理の問題を、民間企業の管理とあまりに容易に同一視することには慎重だが、いくつかの巨大企業が有力なCEOに頼っていることに注目してきた。彼はいかに資金を使うかを厳格に管理し、主要部門の長を雇用しまた解雇し、比較的穏健なスタッフに助けられている。そして実施部門に実行の責任を残している。
 「国家情報長官」は、CIAの業務を統率する地位を離れるという不利益がある。たとえば「国家情報長官」はその主要省庁を主導しないことから、強い支持基盤は持てないだろう。しかし、我々はこの不利益は、別の観点によればそれに勝る点があると信じる。
 ・「国家情報長官」は、合衆国内部の情報収集について直接監視できなければならない。しかし、法と慣  習がこのように明白な国内の役割をCIA長官に与えることに反対している。
 CIAは、国家の優先度の設定の中で、いくつかの資金請求者の中の一つとなる。「国家情報長官」は、  一方の代弁者と、全体の審判を兼ねてはならない。
  ・秘密作戦(cov.op)は高度に戦術的になりがちで、綿密な注意を必要としている。「国家情報長官」はその細部を監視するために、ホワイトハウスと密接な協力を保ちながら、その監視を統合作戦センターに依るべきである。CIAは、このような作戦の実行能力の設立と、現地で作戦を指揮し、実行する人材の提供に集中する事が出来るようになるだろう。
 CIAは、分析能力と人間による情報収集能力の再構築に全精力を注ぐべきであり、CIA長官はその相対的な長所の拡大に重点を置くべきである。
 勧告:CIA長官は次の点を重視するべきである。(a)CIAの分析能力の再建、()人間による情報収集能力に依拠した秘密任務への変換、(c)高い標準と十分な財政的刺激を持つ、より強い言語計画の展開、(d)作戦担当職員が容易に外国の都市に溶け込めるよう、職員採用に多様性を重視するよう改める、(e)作戦段階で、人間による情報と[電子的]信号収集の間に継ぎ目のない関係を確保すること、(f)単独作戦と協同作戦との間のより良いバランスを強化すること。
 
 CIAは、関連する国家情報センターによって委任され、国家情報長官と大統領によって認定された秘密(clandstein)または極秘工作(covert)の指揮と実行に、引き続き責任を持つべきである。それは、宣伝、引き渡し(rendition)、非軍事的混乱を含む。しかし、我々は、責任を持つ重要な一つの分野は変えるべきだと信じる。 
 勧告:準軍事作戦の指揮、実行の責任は、秘密(clandstein)または極秘(covert)作戦にかかわらず、国防総省に移管するべきである。そこには「特別作戦コマンド」の中ですでに開発された、このような作戦の訓練、指揮、実行ついての能力が集約されているであろう。
 ・9/11以前、CIAは合衆国民による準軍事作戦の運営について、強い能力の開発に投資しなかった。必要な軍事訓練なしにCIA工作員によって組織化された代理人に依存していた。その結果は不満足なものだ  った。
  ・資金か人材のどちらかでその価格を測定されるとしても、合衆国は我々の秘密軍事作戦を実行するために二つの分離した能力を造成する余裕はない。秘密裡に遠隔操作型ミサイルを操縦したり、外国の軍隊や準軍隊を訓練するような能力である。合衆国は、責任と必要と考えられる法的権力を一つの組織に集中するべきである。
 9/11以後、アフガニスタンでの極秘(co)およ秘密(cl)作戦におけるCIAと軍の協同チーム使用の先例  は、良いものだった。我々の提案はこれと一致すると信じる。各官庁は、それぞれの優れた点を、合同任務の能力建設に集中するだろう。作戦自体は共同で立てられるだろう。
 CIAは工作の機敏性について信頼がある。軍は組織的で扱いにくいとの評判を持つ。我々はこのような決まり文句 が、現在の真実に合っているかを知らない;それらはまた、我々が4章で記したような、民間と軍の誤解の一つの兆候かもしれない。それは政策指導と官庁の管理の中で解決される問題であり、このように微妙な業務の中の重複した 能力と権限の創設の中でではない。CIAの熟達者は、軍の教育、訓練、計画の中に合体されるべきである。現在この分野の任務に就いている職員の言葉を引用 すれば、「一つの戦い、一つのチーム」である。
 勧告:結論として、我々が述べてきたように、秘密性と複雑性と闘うためには、国家情報とその構成官庁のために充当される資金の総額はもはや秘密にするべきではない。議会は、各種の情報業務の間に分配されてきた何百億ドルの広範な割当額を守りつつ、情報に対する個別の支出決議を承認するべきである。
  今日と同じように、情報支出金の明細は非公開となるだろう。公開の反対者は、アメリカの敵は上位の支出の数字を追跡することによって、情報能力を知ることができると主張する。しかし上位の数字自体は、合衆国の情報源や活動についてほとんど知見を与えない。合衆国政府は、インテリジェンスを含む軍の支出についての豊富な情報を直ちに提供する。情報社会は多量の公開には従うべきではない。しかし、分野別数字の合計が隠されている場合には、優先度と育成の責任foster accountability)の判定は困難である。
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133 情報共有の努力の統合
   (原文 p.416) 
情報共有 
 我々は、既にすべての妥当な情報源から引き出す、情報分析の重要性について強調した。すべての情報源の分析 ―それは点を結び付ける上で大きなヒントとなる― の最大の障害は、情報共有に対する人間または組織の抵抗である。
 合衆国政府は、巨大な量の情報にアクセスしてきた。一般には税関や出入国管理などが「情報」と考えられていなかった時も、それらはデータベースに蓄積され、その貯蔵庫は巨大なものとなった。しかし、合衆国政府は、持っているものの加工と利用についてのシステムが弱かった。政府関係者のインタビューの際、次々と職員たちは政府の事業の魅力のない「舞台裏」についての欲求不満に注意を払うように主張した。
 9/11の物語の中で、たとえば我々はしばしばアクセスすることができた情報 20001月にナワフ・アル・ハズミの認定を助けたかもしれない、配布されなかったNSAの情報のようなもの― を見てきた。誰かが情報を求めるべきだったが、誰もそうしなかった。あるいは、8章に述べたエピソードのように、情報は公開されたが、限られた個室状の範囲内であった。あるいは、情報は利用可能で、誰かがそうしたが、それを共有されることはなかった。  
 こうした話題のいずれにも共通して見られることは、情報共有の前に、明示された「知る必要性」を要求するシステムが存在していた事である。What all these stories have in common is a system that requires a demonstratted "need to know"before sharing.この手法は、誰がその情報を使う必要があるのかを、前もって知ることができると想定している。このようなシステムは、より広い情報共有がもたらす利益よりも、不注意な情報開示がもたらすリスクの方が重大であることを暗黙のうちに想定している。こういった冷戦時の想定は、もはや適当ではない。納税者の支払いによって情報を所有していると感じる官庁の感覚の文化は、その情報を利用できるようにすることによって納税者の投資に応えるという、情報についての義務を感じる文化に置き変えられなければならない。
 それぞれの情報官庁は、冷戦の結果である安全保障の慣行を持っている。我々は確かにこれらの慣行を理解する。古い敵・ソビエトが別のスパイに置き変えられつつあるとしても、情報漏洩の懸念はいまだに現実である。
 しかし、安全保障についての不安は、コストについてよく考慮する必要がある。現在の安全保障の要求は過剰な秘密主義であり、官庁間の度をすぎた「個室化」である。各官庁の動機づけ(incentive)の機構は、情報共有は危険を伴う(犯罪、民事および内部の行政認可)が利益は殆んど無いとして、情報共有に反対している。長期の過剰な情報非公開に伴うコストを支払う者は誰もいない。しかしこのようなコストは ―文字通りの財政期間内であっても― 重要なものである。情報を共有しないことについての罰則はない。諸官庁は、統合の「共有の必要性」の文化促進より、情報保護の「知る必要性」の文化を支持している。
 勧告:情報の取り扱い手続きは、安全確保と情報共有の間のより良いバランスを回復し、情報共有に動機付けを提供するべきである。
  国家横断的テロリズムについて集められた情報は、それがパキスタンで集められたものでもテキサスで集められたものでも、同一の品質基準に従って整理され、報告書にまとめ、配布されなければならない。
 その情報源や収集方法が大きく異なっていることは避けられない。従って、我々は報告が最初に作られる時、そのデータを、それが得られた情報源と収集方法から分離することを提案する。その報告は、最も共有可能な、しかし意義のある情報で始まる形式とするべきである。したがって、最も多くの受領者が何らかの形でその情報に接することができる。もしさらに詳細な知識が重要であれば、いかなるユーザーもさらに質問することが出来るが、アクセスはネットワークの規則に従って、許可されたりあるいは拒否されたりする。そして誰が情報にアクセスしたかを知るために、質問と共に審査の経過が残される。しかしネットワークの端末にその手がかりを機敏に発見する熟達者がいなければ、質問は全く来ないかもしれない。
 我々は、情報が個々の官庁を越える新しいネットワークを通じて、水平的に共有されることを提案する。
・現在のシステムは古いコンピュータの上に、[車輪の]ハブからスポークが伸びるような構造で構成され  ている。各 々の官庁はこの古い手法の中に、自身のデータベースを持っている。官庁のユーザーはデー タベースに情報を送り、さらにそれを検索することが出来る。
・分散型のネットワーク・モデルには、その背景に多くの情報の革新とデータの水平的共有の概念がある。官庁は今なお自身のデータベースを持っている。これらのデータベースは、官庁間の回線により互いに検索可能である。このようなシステムの秘密は、ネットワークの設計と、データへのアクセスは管理するが、ネットワーク全体へのアクセスは問題としないという設計思想「情報の権利の管理」によって保護されている。この「信頼できる情報ネットワーク」の概念的な枠組みは、マークル財団の、国家安全保障、情報技術、および法律集団のリーダー的職業人からなる特別チームによって発展させられてきた。その報告は合衆国政府を通じて広く討議されてきたが、いまだに実行に移されていない。
 勧告:大統領は、主要な国家安全保障機構に情報革命をもたらす政府全体の努力を主導するべきである。大統領は法律、政策および技術上の問題を調整し、諸官庁を越える「信頼できる情報ネットワーク」を作り出すべきである。
・それを単独でできる官庁はない。官庁の善良な職員たちは、彼らのシステムを更新するために、巨大な圧 力の下にある。彼らは独力では「ストーブの煙突」を新型にするだけで、[新しいストーブに]置き 変えることはできない。
・大統領の指導力のみが、政府全域の基本理念と基準を創造することができる。今のところ、この仕事をしているもの は誰もいない。管理予算局の援助を受け、新しい「国家情報長官」に[情報]社会全体の情報利用共通基準を設定する権限を与える。次いで、国土安全保障長官は、そのシステムを公共機関および関連する個人企業のデータベースに拡大することを助ける。このようにして、政府全体の主導権は成功する、
・政策と法律の制定は、技術的な問題より困難なため、ホワイトハウスのリーダーシップはさらに必要となる。必要な技術はすでに存在する。存在しないものは規則;[データを]入手し、アクセスし、共有し、さらに利用可能な公共および個人の巨大なデータを使用する規則である。情報共有が働けば、それは強力な道具となる。従って、情報の共有と使用は、一組の実用的な政策ガイドラインによって導かれなければならない。それは職員たちに権限を与えると同時に、何が許され、また許されないかを知らせ規制する。
 「これは新しい脅威に直面した政府の、新しいやり方だ」。最新のマークル[財団]報告は説明する。「そしてこのような変化が必要であれば、プライバシーその他の市民の自由は保護されるのか、ビジネスには無関係・不必要な情報を要求され不当な重荷を負わされることは無いか、納税者の金は上手に使われるのか、そして究極的には、ネットワークは我々の安全保護に有効なものかなど[の疑問]が人々の信頼の間に生じても、それは完成させなければならない」。さらに著者は付け加える。「政府のすべてのレベルから、また個人企業の多くの場所から、リーダーシップを持った指導者が現れつつある。いま必要とされるものは、これらの取組みを加速し、最終目標についての公衆の討議と、目標についての合意だ」。
 13・4.議会での取組みの統一   (原文 p.419

情報と国土安全保障に対する議会の監視強化 
 我々のすべての勧告の中で、議会の監視強化はもっとも困難で重要なものであろう。我々は監視が現行の議会の規則と決議によって管理されている限り、アメリカ国民が望み、必要とする安全保障を得ることは出来ないと確信する。合衆国は、その情報官庁を監視し、援助し、指導力を与える、強力で安定しかつ有能な議会の委員会組織を必要としている。
 ワシントンの中で、議会の司法および権利の委員会ほど変革が難しいものはない。あるメンバーにとっては、これらの課題は各自の選挙区地図とほとんど同様に重要であった。アメリカの人々は、これらの変化は起きると強く主張するかもしれないが、或いは十分うまくは行かないかも知れない。議会の両党の多くのメンバーおよび議会スタッフと面接しながら、我々は議会の監視について不満が広く残っていることを発見した。
 アメリカの情報官庁の将来の挑戦は、非常に困難なものとなりつつある。そこには、先端的な技術開発の必要性を含む。その技術は我々の政策立案者や戦闘員に、合衆国の利害が重要な場所での戦闘に決定的な効果を与える。良い情報は、戦争に勝つのみでなく、最良の情報はその突発を完全に防ぐことを可能にする。
 現在の規則と決議の条件下では、上院および下院の情報委員会は、共にこの挑戦に立ち向かう力量、影響力および持続力に欠ける。情報活動の広い知識や、使用されている技術についてのノウハウを持っている議会のメンバーは殆んどいない。すべてのメンバーが、良い監視は偶然の結果だと確実に感じる必要がある。彼らが問題に不慣れなことが、安全の保持の必要性と結合したとき、本質的な変化が指令(mandate)として現れる。
 現存する機構をつぎはぎするだけでは十分ではない。統合原子力委員会をモデルとして、両議会は情報に関する統合委員会を創設すべきである。あるいは上院と下院に権威と妥当な力を結合した委員会を創設するべきである。
 この二つの形式のどちらが選ばれるにしろ、その目標は、明確に与えられかつ注意深く制限された力を持つ、決議によって成文化された組織である。指名された議会メンバーの比較的小さなグループであり、メンバーには主題と官庁について学習する時間と根拠が与えられる。情報機構の監視を実行し、明確に彼らの仕事に責任を持つ。委員会のスタッフは無党派で、メンバー個人のためにではなく、委員会全体のために働く。
 我々が示した別の改革は「国家対テロリズム・センター」と「国家情報長官」に関するもので、もし議会の監視が変わらなければ[この改革は]機能しないだろう。もしそれが分離した議会の監視によって分断されれば、上級管理者の統合の努力は失われるに違いない。
勧告:現在、情報とテロリズム対策について、議会の監視は機能していない。議会はこの問題に取り組まねばならない。我々は多くの選択肢を考慮してきた:過去の原子力エネルギーのような統合委員会はその一つである。付与された権限と適切な機能が結合した、議会各院毎の単一の委員会は別の案である。
 
・新しい委員会は、情報官庁の活動について継続的な学習を実施すべきである。そして、情報の発達と利用 に関する問題について、上院と下院のすべてのメンバーに、報告するべきである。
・我々はすでに情報についての資金の総額レベルは公開されるべきであり、また国家情報計画は国防長官で はなく、国家情報長官に割当てられるべきだと勧告してきた。 
・我々はまた情報委員会は、特別の監視に従事し、予算消費の責任から自由な小委員会を持つことを推奨す る。 
・新しい委員会組織を作り出す決議は、委員会に召喚する権限を与えるべきである。委員会において、多数 党の委員は、少数党の委員を一名以上越えてはならない。
・委員に任命されるメンバー中の四名は、軍事、司法、外務、および防衛支出小委員会にも所属する。この ような方法によって、他の主要な議会の利害は新しい委員会の作業の中に持ち込まれる。
・メンバーは情報委員会に期限を決めずに勤務するべきである。それによって彼らに専門知識を蓄積させる 。
・各メンバーが委員会の作業の質について、責任の大きさと説明責任を感じるように、委員会は小さく―お そらく各院で七ないし九名― とするべきである。
 「国土安全保障省」のリーダー達は、現在、議会の88の委員会・小委員会に出席している。一人の専門家の証人(政府の職員ではない)は、これは、省の発展の成功を妨げている、おそらく唯一の最大の障害だと我々に語った。このような委員会の権限を、「下院国土安全保障特別委員会」に統合するといった試みは無視されるだろう。上院は、かつてこのような事を行った例は無い。
 議会は、国土安全保障省のために明白な権利と責任を確立する必要がある。その存在によって司法省は犯罪を扱い、国防総省が国家の安全に対する脅威を扱うことを可能にしている。各院にただ一つの権威を持つ委員会と適切な小委員会しか無いとしても、議会は国土安全保障長官に、合衆国内での主要なテロリストの行為に対抗する妥当な安全保障を提供する手段を持っているか、また省の業績に責任を持つ秘書官などを持っているかを問いただすことが出来なければならない。
 勧告:議会は、国土の安全保障を監視し見直すための、単一で主要なポイントを設定しなければならない。議会のリーダーたちは、どの委員会がその分野と任務を管轄するべきかを、もっとも良く判定することが出来る。しかし、我々は議会が一つは下院に、一つは上院に[委員会を]持つ義務があると信じる。そしてその委員会は、無党派のスタッフを持つ常設の委員会であるべきだ。  
 
政権の移行期の改善

 第6章で我々は2000年から2001年の[政権の]移行期について記した。政策の発表を過ぎても、新しい政府[ブッシュ政権]は副長官級職員(deputy cabinet officer)を2001年春まで決められなかった。さらに重要な次官級職員deputy subcabinet officials)は夏になるまで確定しなかった。言い換えれば、新しい政府は ―これまでと同様に― オフイスを開いてから六か月の間、仕事をするチームを持たなかった。
勧告:破滅的な攻撃は僅かな警告でも、あるいは警告が無くても発生するかもしれない。そのため、国家安全保障の任命プロセスを加速することによって、我々は可能な限り政府の交代の間の国家安全保障政策の立案の中断を、最小化しなければならない。我々はこのプロセスは、移行がより効率的に行なわれ、新しい職員が彼らの新しい責任を出来るだけ早く引き受けることを、著しく改善すると考えている。
 ・選挙前に、候補者は彼らの将来の移行チームの選ばれたメンバーの氏名をFBIに提出する。それによって、これら  のメンバーは選挙終了後、直ちに安全保障上の審査を受けることが出来る。
 ・大統領当選者は、国家安全保障に関連する可能性のある候補のリストを、安全保障の認可を得るために  、選挙後直ちに提出すべきである。それにより、彼らの身辺調査は120日[大統領就任式]より前に  完了することが出来る。
 ・単一の連邦官庁が安全審査の提供と維持に責任を持つべきである。そこには均一の様式の安全についての質問と財務報告の要求を含み、単一のデータベースを維持する。この官庁は、必要とする組織のためにポリグラフ・テストを実施する責任を持つ。  
大統領当選者は、新しい国家安全保障チームの全員の指名リストを、内閣秘書官補(undersecretary of cabinet)レベルにいたるまで、120日までに遅滞無く提出しなければならない。これに対し、上院は指名後30日以内に、国家安全保障の被指名者を聴聞し、承認か排除かを投票する特別の規則を採用するべきである。上院は、幹部三等級以下の被指名者については、このような承認を行う必要はない。
・去ってゆく政権は、大統領当選者に、特定の目録・作戦中の国家安全保障に対する脅威;主要な軍または秘密の作戦;戦力の使用について保留となっている決定などの、非公開で個室に保管されているリストを、選挙後なるべく早く提供するべきである。このような書類は、通知とチェックリストの二つの方法で提供してもよい。また、質問とさらなる学習のために、大統領当選者を招待しても良い。

13・5 合衆国内のアメリカ防衛の組織化  
(原文 .423
FBIの将来の役割 
 我々は、合衆国内での情報収集に専念する新しい官庁の提案について考察してきた。ある人々はこの提案を「アメリカ版MI5」と呼んだ。しかし、その類似性は弱い。実際には「英国安全保障サービス」は、比較的小さいが、世界的な官庁であり、合衆国政府ではテロリスト脅威情報センター[TTIC]、CIAFBI、国土安全保障省に割り当てられている任務を総合している。
 FBIについていえば、そこは国家安全保障の任務以上に、永く司法犯罪任務を好んできた。その理由の一部は、国内各地でのFBIに対する要求が、犯罪事件に対する援助だったからである。FBIは国内の情報調査に過度に熱中したことが1970年代に公開され、正当に批判された。そのため1980年代から1990年代には、FBIは活発な防諜機能を維持し、海外テロリスト・グループの合衆国内の活動調査の主導的官庁であったにも拘わらず、振り子はこのような調査の反対の方向に振れた。
 我々は新しい国内情報官庁の設置を勧告しなかった。もし我々の他の勧告が採用されれば、それは必要ないからである。それは、国の内外でのテロリズム対策情報業務を監視する強力な国家情報センターをNCTCの一部として設立し、また情報の収集、加工、報告についての基準を設定し、強化することが出来る「国家情報長官」のポストを設立するという勧告である。
 我々が勧告した構造のもとでは、FBIの役割に重点が置かれた。それはなお極めて重要である。FBIは、アメリカの市や町で情報を集めるために、その数千の捜査員と他の雇用者を指揮する必要がある。情報提供者をインタビューし、監視と捜索を実施し、個人を追跡し、地域の官庁と協力して働く。それを細部まで注意深く、法令に従って行う。合衆国の街路でのFBIの仕事は、合衆国憲法のもとに管理され、国内では同等のものとなる。海外のCIA作戦職員の仕事に対する法律や規則とは全く異なる。
 新しい国内情報官庁の設置は、[もし行うならば]別の欠陥を持つ。 
 FBIは、法律を守りながら、慎重を要する情報収集作業を行うことに慣れている。もし新しい国内情報官庁が司法 省の外にあれば、法的な監視 ―決して簡単ではない― のプロセスはより困難なものとなるだろう。市民の自由の 乱用が、必要な情報の収集を不利にする抵抗を作り出すかもしれない。
 ・新しい国内情報官庁の設立は、なお脅威が高レベルで残っているのに、現在テロリズム対策に最も責任のある職員 の注意をそらすかもしれない。新しいプレーヤーをテロリズム対策に責任を持つ連邦官庁の混合の間に置けば、存在 している情報共有の問題を悪化させるかもしれない。  
 ・新しい情報官庁は、資産と人材を必要とするだろう。FBIはすでに多くの資産を持っている。28,000名の被雇用者 ;56の現地支局、400の支所、47の法務官事務所;試験所、作戦センター、訓練施設;既存の情報ネットワーク、協 力的被告人とその他の情報源;州および地域の法執行機関、CIA、外国の情報および法執行官庁との関係などである 。
 ・合衆国内の対テロリズム調査は、急速に刑法違反と法執行行為を含む問題となった。なぜなら、FBIは同じ国際テロリズム対象者に、犯罪事件と情報調査の捜査員を持つことが出来るからである。一つの官庁の中で、テロリスト容疑者に対してすべての調査手段を考えることが出来る。9/11以前に存在した情報と法執行との間の「壁」の除去は、FBIの中での協同作業に新しい機会を開いた。
 ・さらにテロリズムの調査は、しばしば資金洗浄、禁制品の密輸など、他の犯罪調査と重なったり、そのきっかけを与えたりする。この分野において、犯罪捜査との密接した関係は多くの利益を持つ。

 合衆国内のテロリズム対策情報収集をなおFBIに残すという我々の勧告は、FBIもし全力で変化を制度化するならば、その仕事を行うことが出来るという評価によっている。3章で述べたように、我々はその捜査官たちの示した決意に感銘を受けてきた。彼らは、事実を推定に当てはめるために細部を追求し、忍耐強く余分のマイルを歩き、余分の月を働く。我々は「報告書」の中で、捜査官たちがフェニックス、ミネアポリス、そしてニューヨークで、彼らの捜査を推進するためいかに主体性を発揮したかを示した。
 FBIの現場の捜査官と分析官は、より強い情報捜査官となるために、持続的な支援と特定の財源を必要としている。彼らは、情報提供者を得るため、またより広い情報を収集し、その種を撒くために、通常の犯罪捜査とは異なる報酬をそれぞれに、またより広い適用範囲で与えられる必要がある。FBIがこれまでして来なかったことだが、FBIの職員たちは、彼らがいろいろな方法で学んできたことを報告し、分析する必要がある。
 FBIは、ロバート・ミュラー長官の下で、情報能力の改善に大きな進歩をした。FBIは、今やその上級管理者によって監視される「情報オフイス」を持っている。すべての地区支局に、FBIの優先度と情報を重視して実行する現地情報グループが作られた。FBIの情報技術システが改良され、情報社会官庁との接触と情報共有が増加した。
 ミュラー長官はFBIの改革が、完全よりはるかに遠いことを認識していた。彼は、追加の対策が必要な範囲の見積もり大きさmeasure)を概算していた。特に、彼はFBIが採用候補者をより広いプールから募集する必要があることを認識していた。国家の安全保障問題に働く捜査官と分析官は、特別な訓練を要求される。そして捜査官は、一般職員の基礎を修得したのち、学習プログラムの中で専門化されるべきだ。FBIは、捜査官の職歴を、テロリズム対策および防諜活動、サイバー犯罪、犯罪捜査、情報などに専門化する職歴プログラムを開発している。それは、捜査官を情報官として保証するプログラムで、この保証は局の幹部級への昇進に必須のものとなるだろう。情報関連の新しい訓練プログラムは制定されつつある。
 FBI長官は将来のFBI情報プログラムの改善として、情報局(Intelligence Directorate)の新設を提案してきた。この局は、情報の計画と政策についてのユニットと、分析官と言語官のユニットを含むものとなるだろう。
 我々は、FBIのテロリズム対策の予防的姿勢への移行が、ミュラー長官の任期を越えて存続し、より完全に組織化されることを望んでいる。我々は、過去にFBIが国境を越えた脅威を扱うように構造を改変する意向を表明してきたが、これは短期間で失敗した。必要とされる制度と文化に変化を与えることに失敗したからある。我々は、このようなことが確実に再び起きないようにしたい。テロリズム対策は今やFBIの最優先課題だとの長官の明白な発言を受け入れたにも拘わらず、9/11から二年後、我々は公表された改革の幾つかと、現場の実情との間にギャップを発見する。我々は、現地支局の管理者が国家安全保障の任務から離れて、今なお人員と資産を地域の関心事に割り当てることが出来る点に懸念を持つ。このシステムは国家安全保障の要求を越えて、優先度の低い刑事事件に焦点を当てるように後戻りするかもしれない。 
 勧告:特殊化され、集約された国家安全保障作業チームがFBIに設置されるべきである。それは捜査官、分析官、言語熟達者、監視の専門家からなる。彼らは募集され、訓練され、報酬をうけ、情報と安全保障の深い専門性を持った組織の文化の発展を確実に維持する。
 ・大統領は、大統領令(executive order)または大統領指令(directive) によって、FBIが情報の中枢として発展するよう指示すべきである。
 ・刑事犯罪と国家安全保障の相互の交流は、双方の任務の成功にとって極めて重要と認められるので、すべての新任捜査官は両方の分野の基礎訓練を受けるべきである。さらに、彼らはその職歴を、双方の分野の有意義な任務から始めるべきである。
 ・捜査官と分析官は、その後これらの分野の一つに特化すべきである。そして、局内での彼らの全職歴についての選択肢を持つべきである。国家安全保障部門内での昇進のためには、一定の上級訓練コースと、別の情報官庁への配属 が求められるべきである。 
 ・相互に影響を与える重要性のために、法執行機関での勤務者を含むFBIの上級管理者は、上級情報官の資格を持つべきである。
FBIは、捜査官と分析官の募集、採用、選定において、情報、国際関係、言語、技術その他の関係する  技能の教育とプロとしての経歴によって,それを目標として個人を惹きつけ、その能力を強化する完全  な方法を実施すべきである。
 FBIは専門チームの取り組みが国家安全保障の情報作戦に耐えられるように、現場の分析官、捜査官、監視職員の統合を制度化するべきである。
 ・各々の地区支局は、国家安全保障問題のための次長級(deputy level)の職員を持つべきである。この人物は監視を管理し、現地で国家の優先事項が実行されていることを確認する。  
 FBIは、予算構成をその四つの主要なプログラム ―情報、テロリズム対策および防諜、刑事犯罪、刑法裁判― に従って配列し、計画のコストの透明性を確保し、資産を管理し、情報プログラムの保護を行わなければならない。
FBIは、各々の現地支局が適正にFBIと国家計画の優先事項に取り組んでいるかを確認するように企画さ れた、半期毎のレビューを定期的に議会に報告しなければならない。
FBIは、現地および本部の分析官の資格、地位、任務の詳細を、議会に定期的に、報告しなければならな い。議会は分析官が訓練を提供されていることを確認し、その経歴上の機会が他の情報社会の官庁の分析官と同じであることを確認するべきである。
・議会は、FBIの現地支局で、現地捜査官が、安全電子メールシステムの利用能力と、秘密情報の交換が増加するよう、資金が安全施設拡大の促進に利用されていることを確認するべきである。議会は、FBIの情報共有の原理が、実際に実行されているかを監視するべきである。
 FBIは、合衆国内の法執行社会としては、ごく小さな部分である。この社会は、主に州と地方の官庁を含んでいる。情報共有のために設計されたネットワークと、地域の「合同テロリズム対策作業班」[JTTF]を通じて、FBIの業務は互恵的な関係であるべきだ。そこでは、州と地区の執行官は、どのような情報をFBIが求めているかを理解し、また逆に、地域社会で発生しようとしている、あるいは発生するかもしれない情報を受け取る。この関係の中で「国土安全保障省」も重要な役割を担うであろう。
 2002年「国土安全保障法」は、情報分析と社会基盤保護について、次官under secretary)に広い責任を与えた。実務上、この職位は「テロリストの脅威から保護する我々の取り組みを進めるために、我々の評価した本土の脆弱性に対するテロリストの脅威」を地図にする任務を持っている。この能力はなお未発達である。担当局長directorate)は割り当てられたある仕事を実施する能力をいまだに進展させていない。それは「国土安全保障省」自身の構成官庁の情報を統合し分析することである。その官庁とは「沿岸警備隊」「シークレット・サービス」「運輸安全管理部」「移民・関税執行部(Enforcement)」「税関」および「国境警備局」(Border Protection)などである。国土安全保障長官は、これら官庁がその任務を達成するために働いていることを「情報分析・社会基盤保護担当局長Directorate)」と共に確認しなければならない。
本土防衛 
 我々は幾つかの質問の中で「誰が本国で我々を守る責任を負っているのか」を尋ねた。我々の本土での国家防衛の責任の第一は国防総省であり、第二は国土安全保障省である。彼らは責任と権限の明確な図を持っていなければならない。我々は、合衆国の空域の防衛の責任を与えられてきたNORADは、アメリカ国境の外側から来る脅威に重点を置いた任務と解釈されてきたことを見いだした。情報社会が、テロリストはハイジャックに方針を変え、さらに飛行機をミサイルとして使うかもしれないという情報を集めたにもかかわらず、その重点を調整しなかった。我々は、NORADが今やすべての任務を包含していることを確認している。合衆国内の防衛に責任を持つ「北部軍司令部」が創設された。
勧告:国防総省とその監視委員会は、本土に対する軍事的脅威に対して合衆国を防衛する、北部軍司令部の戦略と計画を定期的に評価するべきである。
「国土安全保障省」は、アメリカの国境と国家の社会基盤 ―その大部分は個人の手中にある― の防衛に責任を持つ国内の諸官庁を統合するために創設された。その省は、輸送、エネルギー、通信、財政その他の保護が必用とされる制度を認定し、その社会基盤構造の保護計画を開発し、備えを強化するためにその機構の訓練をするべきである。
それは、従来各局がその内部に持ち込んでいた業務以上に、うまく行くことを意図している。 
勧告:国土安全保障省とその監視委員会は、国が直面している脅威の型を定期的に評価し、(a)アメリカの重要な社会基盤構造に対する政府の計画の妥当性とそれらの計画の進捗 (b)合衆国が直面するかもしれない脅威に対する政府の準備などを決定しなければならない。
       ・・・・    
我々は、我々の勧告の利点についての国家的な議論を期待している。我々もその議論に活発に参加するであろう。                                             


第13章 Note

Note 6.[部分] Roberta Wohlstetter  “Pearl Harbor ;Warning and Decision”  Thomas Shelling による序文。Stanford Univ. Press, 1962




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