12 何をするか? 世界的戦略  (原文 p.361
121  時代の挑戦の反映
 9/11から3年を経たが、アメリカ人たちはこの新しい時代にどのようにして自国民を守るかについて、なお考えまた話し合っている。国家的な討論は続いている。
 合衆国にとって、テロリズムに対抗することは、疑いもなく国家の安全保障の最優先課題となっている。この変化は議会、二大政党、メディアそしてアメリカ人の全面的支持のもとに発生した。
 国家は、その安全保障とテロリズム対策のために膨大な資産を割いた。2001会計年 ―9/11以前に採択された最後の予算― と、現在の 2004会計年の間で、防衛(イラクとアフガニスタン双方の支出が含まれる)、国土安全保障および国際紛争に関する連邦政府の全支出は50%以上、3,540億ドルから約5,470億ドルに増加した。合衆国は国家の安全に関する支出について、朝鮮戦争以来、このような急激な増加を経験したことはなかった。
 このような状況は、以前アメリカの歴史の上で起きたことがある。合衆国は突然の危機に直面し、国家のエネルギーの厖大な努力を結集している。地形の急激な変化のように、熟考と再評価の時が来ている。いくつかの計画と官庁さえも放棄される。残ったものは改善あるいは再設計される。個人企業とその従業員は、アメリカ共和国の一員として働きながら、彼らの政府との関係を再評価される。
 今や反省と再評価の時である。合衆国がなすべきことは何か ―その形式と戦略上の目標を考えなければならない。アメリカ人はまた、それをどのようにするか ―その政府を異なった方法で組織化することを考えなければならない。

脅威の定義
 9/11以後の世界においては、脅威は、領土の境界線より、さらに社会の内側にある断層線(フォールトライン)によって定められる。テロリズムから世界的な疾病、環境の悪化に至るまで、その課題は国際的というよりは超国家的になってきた。これが21世紀の世界政治の質を定義する。従来、国家の安全は、外国との国境の監視、対立する国家グループとの比較、そして工業力の測定などによって考察されてきた。危険な状態になると、敵は軍隊を招集しなければならなかった。脅威はしばしば徐々に、多くは目に見えるように現れた。武器が製造され、軍隊が招集され、部隊は訓練されて配置された。大国は強力だったため、失うものも多かったが、[敵の行動を]止めさせることもできた。
  新しい脅威は急速に現れた。地球の反対側の国の、電力や電話もほとんどない、貧しい地域に置かれた本部から指揮されたアルカイダのような組織が、合衆国最大の都市で、予期されなかった大きな破壊力を持つ兵器を巧みに扱うことを企み、まんんまと成功した。
 この意味で、「向こう側」のアメリカの資産に対するテロリズムは、我々が見なした様に「こちら側」のアメリカに対するテロリズムと見なされるべきだという事を、9/11は我々に教えた。この意味においてアメリカの本土とは地球全体である。
  しかし、敵は純粋な「テロリズム」ではなく、特定の枠に分類されない悪である。この曖昧さが戦略を不明確にする。歴史の中のこの時期における破滅的な脅威は、より特異だ。それは、イスラム主義テロリズムによって引き起こされる脅威 ―特にアルカイダ・ネットワークとその仲間、その主義である。
 我々が第2章で述べたように、ウサマ・ビン・ラディンと他のイスラム主義テロリストの指導者達は、イスラムの中の極度に不寛容な長い伝統である一つの流派(伝統的少数派)に依拠してきた。それは、少なくともイブン・タイミーヤから、ワッハーブ主義の創設者達やムスリム同胞団を経て、サイード・クトゥプに至る系譜である。この流派は宗教に動機を持つもので、宗教から政治を区別しない。それによって[宗教と政治]双方に歪みを与える。そこに、さらにビン・ラディンによって強調された不満が供給され、ムスリム社会を通じて共感が広がった ―中東における合衆国軍隊の存在、反アラブ・反ムスリムそしてイスラエル支持などと認識される[アメリカの]政策である。ビン・ラディンとイスラム主義テロリストたちは、彼等の言い分を明確に表す:彼らにとってアメリカとはすべての悪魔の源「蛇の頭」であり、それは改宗されるか破壊されなければならない。
 それはアメリカ人が共に取引したり交渉したりできる立場にはない。そこには対話を始めるための共通の領域 ―生命に対する尊敬すら無い。それは破壊されるか、完全に隔離するしかない。
 過去3世紀のあいだ、ムスリム社会が、政治的にも、経済的にも、また軍事的にも西側社会の背後に没落してきたために、そして寛容な、または世俗的なムスリム民主主義が将来の代替体制として提示されることが殆んど無かったために、ビン・ラディンのメッセージは聴衆を発見した。それは数百の不満を持つムスリムの若者から活発な支持を受け、さらに、はるかに多くの[ムスリム]―必ずしも彼のやりかたを積極的に支持していない者も含めて― も力強く共鳴した。アメリカと西側に対する憎悪は深い。比較的成功しているムスリム国家の指導者の間においてもそうである。
Note 4
 寛容、法の規則、政治および経済の開放、より大きな女性の機会の拡張―これらの解決はムスリム社会自体の中から現れなければならない。合衆国はこれらの発展を手助けしなければならない。
 しかしこれらのプロセスは、年単位でなく、十年単位で計られなければならないだろう。そのプロセスは、イスラム主義テロリスト組織により、ムスリム国内での激しい反対と、合衆国および他の西側諸国への攻撃を引き起こすだろう。合衆国はそれが文明の衝突に到達したことを見いだした。その衝突はムスリム世界の特別の状況下で発生する。その状況とは、国を捨てたムスリム社会が、非ムスリム国内にあふれ出る事である。
 我々の敵は「二つ折」である:アルカイダ、国を超えた組織網をもち、9/11で我々を攻撃した:さらにイスラム世界の中に過激でイデオロギー的な運動がある。その一部はアルカイダに刺激され、テロリスト・グループとして集合し、地球上で暴力を振るってきた。初めの敵[アルカイダ]は弱められたが、なお重大な脅威を引き起こしている。第二の敵は集結しつつあり、ウサマ・ビン・ラディンと彼の一団が殺されるか逮捕されたずっと後にも、アメリカ人とアメリカの権益に脅威を与えるだろう。したがって、我々の戦略は二つの終了に見合うものでなければならない:アルカイダ組織網の除去と、イスラム主義テロリズムを生むイデオロギーに長期にわたって勝利することである。
 イスラムは敵ではない。それはテロと同義語ではない。またイスラムがテロを教えてもいない。アメリカとその友人はイスラムからの逸脱に反対するのであって、その偉大な信仰自体にではない。聖なる書物に書かれた信仰に含まれる、宗教の教義に導かれた生活は、すべての宗教に共通のものであって、我々にとって脅威ではない。
 他の宗教は激しい内部抗争を経験してきた。多くの分裂した信者と共に、どの主要な宗教も、過激な狂信者を生み出すだろう。しかし、異なる信仰の人々の間で、理解と寛容を広げることができるし、またそうしなければならない。
 現時点での超国家的危険はイスラム主義テロリズムである。[これに対抗するために]必要とされるものは、下記の三つの政策に基礎を置く、広範な政治的軍事戦略である。
 ・テロリストとその組織に対する攻撃
 ・イスラム主義テロリズムの継続的成長の妨害
 ・テロリストの攻撃に対する防護と準備
テロリズムとの戦争以上のもの
 テロリズムは、殺人や破壊のために個人や組織によって使われる戦術である。我々の取り組みは、このような個人または組織に向けられなければならない。この闘争を戦争と呼ぶことは、テロリスト集団とその同盟者を現地、特にアフガニスタンで、発見し破壊するためのアメリカとその同盟軍の使用を明確に表限する。戦争という言葉は、また国家的取り組みの動員を引き起こす。しかし、その戦略は平衡のとれたものでなければならない。
 9/11以後の我々の第1段階の取組みは、当然ながらタリバンの転覆とアルカイダ追跡のための軍の行動を含んでいた。この仕事は続いている。しかし、長期的な成功のためには、国力の全ての要素を使うことが要求される:外交、情報、秘密工作(covert action)、法権力の行使、経済政策、対外援助、民衆外交、そして本土防衛などである。もし我々が他を無視して一つだけを好めば、我々は傷付き、我々の国家の努力を弱めるだろう
 明らかに、その戦略はテロリズムに対する攻撃的作戦を含むべきである。テロリストたちは、もはや彼らの組織を成長させ、繁茂させる安全な避難所を発見することはできない。アメリカの戦略は同盟戦略であるべきだ。そこには発展と実現の中にあるムスリム国家もパートナートして含まれる。
我々の戦略は、予防戦略も伴うべきである。それは軍事面と同様、あるいはそれ以上に政治的なものである。その戦略は、すべての面でアラブとムスリム社会に明確に重点を置かなければならない。
我々の戦略はまた防御も含むべきである。アメリカは多くの方法で攻撃されうる。また多くの弱点を持っている。防御がないことは間違いない。しかし危機は推定されなければならない;資源の配置について厳しい選択が行われなければならない。アメリカの防衛についての責任が明確に定義されなければならない。計画を作る事で差が生まれ、どこで少ない資金が大きな効果を生むかが判る。防衛は攻撃側の計画を複雑にし、彼らが発見され、失敗する危険性を増加する。最終的に、国家は止めることのできない攻撃に備えなければならない

成功の測定
 イスラム主義テロリズムとの闘争において、アメリカ人は彼等の政府に何を期待するべきだろうか? ゴールは限りないように見える:世界中の何処ででもテロリズムを打ち破る。しかしまた、アメリカ人は最悪の事態を覚悟するように告げられてきた:攻撃はおそらく来ようとしている:それは恐ろしいものだろう。
 このような基準のもとで、行動と出費の正当化は際限がないように見える。ゴールは良い。しかし、効果的な社会政策には、具体的な目標を必要とする。各官庁は成功の基準を作る必要がある。
 このような基準は定量的なものでなくて良い:政府は個人企業がするように成功を測定することは出来ない。しかし目標は、正当な監視者 ―ホワイトハウス、議会、メディア、あるいは一般大衆― が、目的が充分に達成されたか否かを判定することが出来るように、明確なものでなければならない。
 明確でないゴールは、敵のぼんやりとした姿に見合っている。アルカイダとその仲間は全世界に分布し、順応性があり、活動的で、あまり高度な組織を必要とせず、何にでも対応すると一般には描写されてきた。アメリカの人々はこのように全能で不死身の破壊のヒドラ[ギリシャ神話の九頭竜]としての姿を与えられている。このイメージは政府の効果に対する期待を低くしている。
 しかし、それ[期待]を、あまりに低くするべきではない。我々の報告書は、特定された、または可能性のある陰謀グループを示している。しかしそのグループは壊れやすい。わずかな中核的人物に依存しているが、しばしばその主張に引き付けられた能力の低い不安定な人々によって、時折攻撃されやすい状態になる。敵は失敗をした。たとえば、ハリド・アル・ミダルは勝手に合衆国を離れたために、20017月、合衆国に再入国しなければならなくなった。あるいはザカリウス・ムサウイを当事者として選出し、彼に対する送金にラムジ・ビナルシブを当てたことなどである。合衆国政府は、9/11に間に合うように、これらの失敗を利用することが出来なかった。
 我々は、アメリカ人に対するすべてのテロリストの攻撃をいつでも、どこででも打ち負かすことが出来るとは信じていない。大統領はアメリカの人々に語るべきである。
  ・いかなる大統領も、9/11のような悲劇的な攻撃が再び起きないと約束することはできない。もっとも警戒が厳しくかつ経験ある官庁でさえ、決意の固い自殺的攻撃者が標的に到着することを、常に妨げることが出来るわけでは無いことを、歴史が教えている。
 ・しかしアメリカ国民は、彼らの政府がそれに対して、最良の行動をとることを期待する権利を与えられている。彼ら[国民]は、公務員が現実的な目標と明確な手順書、そして効果的な組織を持つように期待するべきである。彼らは、彼らが選出した代表[議員]に助けられて、目標が満足されているか否かを判定できるように、実行についての基準を調べる権利を与えられている。 

                        
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         12・2  テロリストと彼らの組織に対する攻撃 (原文 p.365

 合衆国政府は、世界中の他の政府と協力して、情報、法執行、軍事、財政および外交上のチャンネルを通じて、個々のテロリストを特定し、崩壊させ、逮捕し、殺害するために働いている。この努力は9/11以前から続いており、なお巨大化された規模で続いている。しかし、テロリストを捕まえるには、合衆国や外国の官庁は彼らを発見し、たどりつく必要がある。
聖域無し 
 9/11攻撃は複雑で国際的な作戦であり、何年にもわたる計画の産物だった。2003年のバリ島(*)2004年のマドリッドの爆破のような事件は、数百の生命を奪ったが、地方的に実行することが出来た。彼らの要求は、その規模と複雑さにおいて、[9/11に比べて]はるかにつつましいものだった。彼らを阻止することはより困難だ。しかし、合衆国政府は、次に起きる9/11規模の計画を阻止する能力を作らねばならない。そして、その能力は、より小さいがそれでも破壊的な攻撃への対抗を、大いに助けるだろう。     (*)2002年の誤り。日本人2名を含む202名が死亡(訳注)
 国際テロリスト複合体の作戦は、誰もどこでも実行することができないような、壊滅的な攻撃の開始を意図した。このような作戦には[以下を]必要とするように見える。
  ・十分な計画作成とスタッフ作業を達成する時間、場所および能力。
 ・必要な決定を行い、権威を保持し、必要な人員、資金、資材を調達する接点を持つ指揮構造。
 ・新人を募集し、訓練し、必要とする技術と献身[の度合い]によって工作員を選別する機会と場所。そ  こでは、彼らをテロリストの目標とする社会に適応させ、彼らが信頼に値するかを判定し、彼らの技術を磨くために必要な時間と組織が提供される。
     ・安全に運営が出来る兵站のネットワーク。それにより、必要な場所への工作員の旅行、資金の移動、さらには (爆発物のような)資源の輸送を行う。
 ・ある種の兵器が必要とされる場合、その特別な物質の入手手段。その物質とは、核、化学、放射能、生物による攻撃に必要な物質。 
 ・組織者と工作員の間の信頼性のあるコミュニケーション。
 ・計画の動作性能をテストする機会。
  2, 5, 7章の多くの細部で、9/11攻撃と他の作戦の準備における、アルカイダにとってのアフガニスタンの保護区の直接、間接の価値を例証している。その組織は、そこで何年かを共に働くことによって、ジハード経験者たちの間の個人的な結合を強くした。新兵を集め、移動し、孤立した砂漠のキャンプで彼らに思想教育をする訓練場所を持っていた。パキスタンからアラブ首長国連合にいたる兵站網が作り上げられた。
 アルカイダは、また西側社会、特にドイツの比較的緩やかな国内保安環境をも利用した。合衆国内の環境も居心地よいものだった。9/11工作員たちは、アメリカを将来の訓練と実習のための集合場所とした。旅行のために入出国し、国内を周り、ほとんど逮捕を恐れることもなく心配せずに実名を使った。
 保護区を見つけるために、テロリスト組織は世界中の統治が最も弱い、あるいは最も無法な地帯に逃れた。情報社会はテロリストの保護区となりうる地域を強調した世界地図を準備した。秘密情報は使わなかった。そこは険しい環境につながり、統治が緩やかで、供給を受けたり隠したりする空間があり、人口は少ないが外界との必要な接触が出来る町や市が十分近くにある地域を示していた。これらの基準に合う大きな地域は、世界中に散らばっていた。
 現在、前線でテロリストと戦っているアメリカ人と外国の政府職員や軍士官たちと話し合い、我々は彼らに聞いた。
「もしあなたが現在テロリストのリーダーだったら、どこに基地を置きますか?」
彼らの口から、度々いくつかの同じ場所が上がった。
  ・西パキスタンおよびパキスタン‐アフガニスタン国境地帯
 ・アフガニスタン南部または西部
 ・アラビア半島、特にサウジアラビアとイエメン、およびソマリアとケニア南西部に広がる「アフリカの角」近隣地域
 ・東南アジアのタイからフィリピン南部、インドネシアに至る地帯
 ・ナイジェリアとマリを含む西アフリカ
 ・故国を去ったムスリムの社会があるヨーロッパの都市。特にセキュリティーと国境統制がより効果的で  はない中部および東部ヨーロッパ
  20世紀には、戦略家は世界の大きな工業の中心地域に焦点を合わせた。21世紀には焦点は逆の方向、遠隔地や「失敗国家」に向いている。合衆国は、その影響力を限界まで働かせながら、その手を伸ばす方法を見つけなければならない。
 我々が作るすべての政策決定は、このレンズを通して見る必要がある。たとえば、もしイラクが失敗国家となったら、アメリカ本土に対する攻撃のための好適な育成場所のリストの最上位となるだろう。同じように、我々がもしアフガニスタンに注意を払うことが不十分であれば、タリバンや軍閥あるいはその心酔者の支配が再び出現し、その辺境はまたタリバンやその後継者に避難所を提供することになるかも知れない。
勧告:合衆国政府は、実在の、あるいは可能性のあるテロリストの保護区を特定し、優先順位を決めなければならない。その各々について、国力のすべての要素を用いて、テロリストを不安定な状態におき、逃げ出させるようにする現実的な戦略を持つべきである。我々は助けることが出来る他の国々に出かけ、聞き、共に働くべきである。
  我々は2004年現在特に適用できる三つの実例を提供する:パキスタン、アフガニスタン、サウジアラビアである。
パキスタン 
 パキスタンの地域的貧困、拡がった腐敗、そしてしばしば効果のない統治は、イスラム主義者に募兵の機会を作り出している。貧弱な教育が特別に関係している。何百万の家族、特に貧困家族が、彼らの子供たちを宗教学校やマドラサ(*)に送り出している。これらの学校の多くが、教育を受ける唯一の機会である。しかし、そのいくつかは暴力的な過激主義者の孵卵器として使われて来た。カラチの警察長官によれば、彼の担当する市内だけで、859のマドラサがあり、20万人以上の若者を教育している。
 
*)本来はイスラム高等教育機関の呼称だが、この場合は寺子屋的な私的教育機関(訳註)
 イスラム主義テロリストとの戦いにおいて、パキスタンの重要性を強調しすぎるということは無い。パキスタンの国境地帯には、15千万人のムスリムと多数のアルカイダ・テロリスト、さらに多くのタリバン戦闘員と、おそらくはウサマ・ビン・ラディンがいる。パキスタンは核兵器を持ち、カシミール地域の境界紛争をめぐって、同じく核武装したインドとの間に、驚くべきことに核戦争直前にまで至っている。反米的なイスラム原理主義者との政治闘争において、パキスタン軍部と、より穏健な主流派政治勢力は、すでに溢れだす暴力の中に投げ込まれている。そして、パキスタン大統領:ペルベツ・ムシャラフを殺害する試みは最近まで繰り返されている。
 近年、合衆国はパキスタンとの関係において、三つの基本的な問題を持ってきた。
 テロリズムについて、パキスタンはタリバンの育成を助けた。パキスタン軍とその情報機関、特にその最高位者の  次位の者は、イスラム過激主義者に対面するにあたって、長い間、複雑な感情を持ってきた。政府内の多くのものが過激主義に共鳴し、また支援を提供した。ムシャラフはビン・ラディンが悪であったことに同意した。しかし、9/11以前にはタリバンと良い関係を保つことは、優先事項だった。 
 核拡散について、ムシャラフは、パキスタンは核技術を交換取引することは無いと繰り返し言ってきた。しかし核拡散事件は長期的で大変深刻な問題である。つい最近、まで、パキスタン政府は、核兵器開発者で国家的人物の一人が、かつて摘発された最も危険な核密輸組織を率いていたことを知らなかったと主張してきた。
 結局、パキスタンは国際基準の民主主義のルールに帰る上では、ほとんど進歩がなかった。しかし、この混乱状態は地方レベルで働き続けているものである。またパキスタンの新聞は比較的自由な立場に留まっている。
  9/11直後、合衆国による厳しい選択に直面して、パキスタンは戦略的決定を行った。その政府は傍観する立場で、合衆国が主導する同盟がタリバン体制を破壊するのを許した。他の方面ではパキスタンは積極的に協力した。当局は500人を超えるアルカイダの工作員とタリバンのメンバーを拘束した。そしてパキスタンの警察(forces)は、KSM、アブ・ズバイダその他のアルカイダの主要人物を追い詰める上で、中心的な役割を演じた。
 引き続く2年間、パキスタン政府は国境を巡回した。捜索の間に、アルカイダの残党とイスラム過激派との大規模な遭遇を避けながら、反アルカイダ勢力を助けた。アルカイダとパキスタン人の仲間がムシャラフの殺害を繰りかえして試み、ほとんど成功しそうになった。戦闘はパキスタン国内のものとなった。
 この国の広大な無警察地帯は、過激主義者にとって、パキスタンを魅力的なものとした。彼らは避難所を探し、募兵し、またアフガニスタンの同盟軍に対する作戦基地を準備した。殆どすべての9/11攻撃者たちは、カンダハル―クエッタ―カラチ の南北のつながりを旅行した。パキスタンのバルチスタン地域(KSMの人種的故郷)とカラチの周辺の都市は、合衆国とパキスタンのセキュリティーと諜報の存在が弱かったので、イスラム過激主義者のセンター[複数]が残った。周囲の脅威の重大性を反映して、カラチの合衆国領事館は応急的な要塞だった。 
 2003年から 2004年の冬にかけて、ムシャラフはもう一つの戦略的決定を行った。彼はパキスタン軍に、アフガニスタンとの国境に沿ったパキスタン北西の前線地区に入るよう命じた。そこにはビン・ラディンとアイマン・アル・ザワヒリが避難していると報告されていた。軍は困難な地勢の中で、アルカイダの戦闘員グループとその地方的同盟者たちに遭遇している。前線の反対側では、アフガニスタンにいる合衆国軍が効果的な共同作戦に挑戦した。パキスタンの限られた戦闘能力と、その国土内で合衆国軍隊に作戦を許可することへの抵抗が[このような作戦を]生みだした。2004年には、パキスタン政府が、イスラム主義テロリストに対する戦闘について、これまでよりも厳しくしていることは明らかである。
 これらの問題とムシャラフ自身の経歴を認めたうえで、我々はムシャラフ政府がパキスタンとアフガニスタンの安定についての最良の期待を代表すると信じている。
 ・特異な公開の論文Note 10、ムシャラフはどのようにして「我々がその中にいることを見つけた溝から、我々を引き上げる」ことが出来るかと問うている。ムシャラフは「明るい中庸」戦略を叫んできた。彼は言う。ムスリム世界は好戦性と過激主義を避けるべきである。西側社会 ―特に合衆国― は公平に論争を解消する方法を探し、さらに良くムスリム世界を助けるべきである。
 ・パキスタンとインドは、戦争に近づいた2002 年から2003年に比べ、彼らの長年の相違について、最近平和的に討論する重要な進歩を遂げた。合衆国はこのプロセスの主要な支持者であったし、今後もそうするべきである。
 ・パキスタン人がいつも言うことは、合衆国は彼らを便利な同盟者として扱ってきたという事である。合衆国が新しい協定を作るならば、それは今後幾年にもわたって維持するよう準備されたものだと約束するべきである。
勧告:もし, ムシャラフが彼と国家の生命のために戦うにあたって、「明るい中庸」の側に立つならば、合衆国もまた喜んで困難な選択をするべきである。そしてパキスタンの将来への困難で長期にわたる協力をなすべきである。パキスタンに対して現状の規模の援助を続けながら、合衆国は、パキスタンの指導者たちが彼ら自身の困難な選択に喜んで留まる限り、軍事からより良い教育にいたる包括的な努力と共に、過激主義者との闘いにおいてパキスタン政府を支援するべきである。
 アフガニスタン 
 アフガニスタンはアルカイダと 9/11攻撃の孵卵器だった。2001年秋、合衆国に率いられた国際同盟軍とアフガン合同軍は、タリバンを倒し、その体制によるアルカイダの保護を終わりにした。注目すべき進歩がなされた。国連の明確な委任と、NATOが主導する平和維持軍(the International Security Assistance Force, ISAF)と共に、国際的な協力が強化された。今日、アフガニスタンではNATO同盟軍とムスリム国軍の兵士の参加によって、1万名以上のアメリカ人兵士が除隊した。カブールに、民主的な憲法、新しい通貨と新しい軍隊を持つ中央政府が樹立された。大部分のアフガン人は、より大きな自由を楽しんでいる。女性や少女たちは従属から抜け出しつつあり、300万人の児童が学校に戻っている。長い年月のなかで、初めてアフガンの人々は希望の根拠を持った。 
 しかし重要な挑戦が残っている。タリバンとアルカイダの戦闘員たちは、南部と南西部で再結集している。軍閥たちはカブール[中央政府]より広い地域を支配し、国土には武器が溢れている。経済の発展は遠い希望に止まっている。麻薬取引は、長い間アフガン経済の大きな要素であったが、再びブームになりつつある。もっとも強固な奉仕団員も、多くの地域で活動することを拒否し、ある者は、アフガニスタンは混沌の縁にあると警告している。
 破壊されたアフガニスタンはチャンスを持っている。選挙が準備され、2004 6月に予定されている。タリバン戦闘員はバスに乗っていた16人のアフガン人を虐殺した。その理由は、先例のないアフガンの武器を運搬していた彼らの勇気だった。その武器とは投票者登録カードだった。
 アフガニスタン大統領、ハミド・カルザイは勇敢で献身的である。彼は、部族社会の間の権力配分の慣習を克服し、真の国家制度を創立することを試みている。 しかし彼の努力が成功し、選挙が民主的な政府をアフガニスタンにもたらしたとしても、合衆国はいくつかの困難な選択に直面する。
 軍の作戦中、アフガニスタンの再建に比較的わずかな注意を払った後、合衆国の政策は2003年の間に著しく変化した。政治的局面からのより大きな考察と、援助についての現実的な一連の法案に対する議会の支持が、アフガニスタンへの将来にわたる長期の関与を表明した。一人のアフガニスタンの地方公務員は、この国はようやく良い政府を持ったと、悲しそうに我々に語った。彼は、合衆国がその約束を守り、1990年代にそうしたように、再び見捨てることがないようにと請うた。他のアフガン指導者は、もし合衆国が離れれば「我々は得たもののすべてを失うだろう」と注意した。
 もっとも困難なことは、アフガニスタンの安全保障の任務を明確にすることである。軍のイラク作戦が、アフガニスタンの将来に対するアメリカの関与の規模に影響するかどうかの政治的な論争が続いている。合衆国は、中央政府と対立する軍閥との闘争に関与せず、また麻薬取引に関係した問題に立ち向かうことを避けてきた。
勧告:これまでのアフガニスタンについての大統領と議会の努力は称賛に値する。今や、合衆国と国際社会は、アフガンの人々の生活を改善する適当な機会をその政府に与えるために、安全で安定したアフガニスタンに長期にわたる関与を行うべきである。アフガニスタンを再び国際犯罪とテロリズムの保護区にするべきでは無い。合衆国と国際社会は、彼らの目的を成功させるための戦略と、国家間の契約によって、アフガニスタン政府がその権威を国全体に拡げることを助けるべきである。
 これは野心的な勧告である。それは国家を安全にし、民兵の武装を解除し、軍閥の統治を短縮するという、倍加された努力を意味している。しかし、合衆国とNATOはすでに自らこの地域の将来についての関与を始めてきた ―賢明に、9/11の物語が示しているように― そして、失敗した応急処置は、役に立たないというよりさらに悪いことになるだろう。
 ・特にNATOは、アフガニスタンを、将来の現代的な安全保障に挑戦する同盟軍の能力の試験場として採用した。NATOは試験を通過しなければならない。現在、合衆国と国際社会は、中央政府が真の国軍を創設し、主要な都市と地域に主要な公共施設と最低限の公共サービスを広げることが出来るような十分な支援を構想している。この努力の一部には、さまざまな国旗のもとに配置された外国の市民・軍のチームの参加が期待されている。これらの事業について、NATOと合衆国の制度的関与は弱い。NATO加盟国は追及していない:アフガニスタンに対する援助を約束した世界の国々もその約束を達成していない。
 ・アフガニスタンにおける合衆国の存在は、圧倒的に軍事と安全保障に向いている。国務省の存在は悲しいほどに人員不足であり、また軍の任務は南部と南東部のアルカイダとタリバンの残党に、焦点は狭くしぼられている。もし国際社会が、過激な犯罪と中央アジアの交差点における麻薬密輸を含む法規則の回復に共に努力することを決めるなら、合衆国政府もその役割を果たすことが出来る。
  我々は、援助の金があまりに厳格に割り当てられているために、現地で合衆国の官庁が他の官庁を助けるために、当面の資金を作るとか、援助するとかができないとしばしば聞かされた。数千ドルで大きな変化を生むかもしれないような小規模な場合にもそうである。
 合衆国政府は、下位の公務員たちがより柔軟に官庁の境界を越えて仕事ができるように、また彼らが発見する現地の状況に合わせて、資金を割り当てるべきである。そこには、しばしば地方住民を助ける機会に遭遇する軍の部隊に対する自由裁量できる基金も含まれなければならない。

サウジアラビア

  サウジアラビアは、イスラム主義テロリズムとの戦闘において、問題の多い同盟国だった。高度な政策については、サウジアラビアの指導者たちは、9/11以前にタリバンおよびパキスタンに対する、アメリカが主導する外交に対して協力的だった。同時に、サウジアラビアの社会は、アルカイダが個人から直接、あるいは慈善として金を集める場所でもあった。それはハイジャック犯19人中の15人を生みだした社会だった。
 その王国は、世界で最も宗教上 保守的な社会の一つである。そしてその存在意義は宗教的な環境と深く関係している。特にイスラムの二つの最高の聖地[メッカとメジナ]の守護者としての地位である。ザカートと呼ばれる慈善寄付はイスラムの教えの五つの柱の一つである。それは西側社会のチャリティーの考えより広く普及している ―所得税のように機能し、教育の補助、外国の救恤、そして政治的影響力の源泉となる。イスラム文化には、西側社会のように市民と宗教の義務を分離するという考え方は無い。慈善事業の基金化は、イスラム世界の政府には必須の機能である。それはイスラムの文化として広く根付いており、例えばサウジアラビアでは、サウジ金融経済省の一部局が直接ザカートを集めている。その額は合衆国の国内歳入局の集める給与源泉徴収の税額より多い。ザカートとの強い結合は、政府のイスラム信仰の宣伝、特にサウジアラビアで繁栄しているワッハーブ派の布教活動に対する献金となる。
 伝統的にはムスリム世界を通じて、寄付について公式に監視する方式はない。サウジの富が増大したため、個人と国家による寄付の額は劇的に増加した。相当の額が、あらゆる種類のイスラム式チャリティーの財源となった。
 サウジの国内チャリティーは労働・社会福祉省によって管理されている。これに対して、[その他の]チャリティーと「世界ムスリム青年協会議(WAMI)」のような国際救済機関は、イスラム事業省によって管理されている。この省は、ザカートと政府の基金を、ワッハーブ派の信仰の普及のために、モスクや学校も含み、世界中に振り分けている。これらの学校は、しばしば唯一の教育の機会を提供している。豊かな国においてさえも、サウジの資金によるワッハーブ派の学校が、しばしば唯一のイスラムの学校である。いくつかのワッハーブ派の資金による組織は、過激主義者によって彼らの最終目標である非ムスリムに対する暴力的聖戦[ジハ-ド]のゴールのために利用されてきた。これらの組織の一つは「アルアラメイン・イスラム協会」であった;そのいくつかの支部の財産は合衆国とサウジ政府によって凍結されてきた。
 9/11まで、慈善的寄付について、政府の監視の必要性を考えているサウジ人は、ほとんどいなかった;多くの者は、そのようなことは彼らの信仰の実践に対する妨害だと感じてきた。同時に、国家の支出の大部分をエネルギー収入により資金調達する政府の能力が、近代的な所得税制度[導入]を遅らせてきた。その結果、チャリティー使用の監視については、宗教、文化、政策面での強い障壁が存在してきた。しかし、それは変わりつつあるように見える。いまや、暴力的聖戦のゴールは、イスラム過激派の思惑通りに動かないスンニ派政府(サウド家の議会のような)の転覆にまで進展している。
 合衆国のリーダー達とサウジアラビアの統治者達は、長い間、友好的な関係を保ってきた。これは基本的には冷戦中のソビエト連邦に対する共通の利益に根差していた。アメリカ人はサウジの石油供給が、世界の市場で石油の供給と価格を安定させることを望んでいた。またサウジはアメリカが外国の脅威から王国を保護することを望んでいた。
 1990年、王国は合衆国が主導する第一次イラク戦争に先立って、合衆国軍隊に基地を提供した。アメリカ人兵士と飛行士たちがサウジアラアビアの防衛のためにその命を捧げた。一方、サウジ政府は、イラクを封じ込める国際的貢献の一部として、アメリカ軍基地の残留を2003年まで認めたことによって困難を抱えている。
 永年、双方の指導者たちは彼らの結合を静かに、そして舞台裏で維持することを好んだ。その結果、合衆国だけでなくサウジの民衆も双務的関係のすべての局面を評価した。そこには、中東和平プロセスを推進する合衆国の戦略の中でのサウジの役割も含まれていた。それぞれの国で、政治家たちは、他者との良好な関係を公然と守ることが難しいことを理解している。
 今日、双方の非難が流れ出ている。多くのアメリカ人はサウジアラビアを戦時の同盟国ではなく、敵と見なしている。彼ら[サウジ]は、女性を抑圧し、豊かだが怠惰なエリートに統治される独裁的な政体だと気付いている。アメリカの政治家と接触しているサウジ人は、党派的政治論争の中でしばしば告訴されている。アメリカ人は、学校で教育されたり、モスクで説教される、不寛容、反セム主義そして反アメリカの論議にしばしば我慢できなくなる。
 サウジ人もまた怒っている。アメリカに共感を持っていた、多くの教育を受けたサウジ人たちは、いまや合衆国を非友好的国家と理解している。ある改革派のサウジ人は、合衆国のメディアがサウジアラビアを悪魔的に表現することは、改革派を合衆国の従僕だと非難している過激派に銃弾を与えることだと我々に注意した。かつては定期的に合衆国に旅行し(そしてしばしば家を持っていた)数万人ものサウジ人は、いまやどこかに行ってしまった。
 サウジ人たちの間では、彼らが熱烈に共感しているパレスチナ人の紛争において、合衆国はイスラエルと同列にあると見られている。しかし、重要な問題が残ってはいるが、9/11攻撃の後、テロリズムに反対するサウジアラビアの協力はある程度改善された。当初、王国の多数の人は、不信と否定で反応した。引き続く数か月で、真実が明らかになるにつれて、いくらかの指導的サウジ人は平静に問題を認めた。しかし、なお彼ら自身の体制が脅かされているとは考えなかった。そして、しばしば合衆国の援助の要請にすぐには反応しなかった。しかし、サダム・フセインは広く嫌われているが、多くのサウジ人はイラクの反合衆国の暴動に同情的である。しかし[サウジ人の]大多数は王国内での聖戦派の攻撃を非難している。
 パキスタンやイエメンその他の国におけるように、テロリズムが国内にやってきた場合に態度が変わった。協力がすでに重要となっていた。しかし、2003 512日のリヤドでの爆発のあと、それは大きく改善された。王国は公開で過激主義について討議した。そしてテロリストを宗教上の異端とし、海外での宗教活動に対する支援を減らし、疑わしい慈善団体を閉鎖し、逮捕者を公表した。国内の平穏を好む政府にとっては、ごく一般的な動きである。
 サウジアラビア王国は、いまやアルカイダとの致命的な戦闘に巻き込まれている。サウジの警察官はテロリストとの銃撃戦で日常的に殺されている。2004 6月、合衆国駐在サウジ大使は ―サウジの新聞で― 彼の政府に、テロリストに対する彼らの聖戦に従事するよう、公開で呼びかけた。「我々全員、国家も国民も、彼らの犯罪の真実を認識しなければならない。」彼は宣言した。「もし我々が全面的な動員を宣言しなければ―我々はこのテロリズムとの戦いに敗れることになるだろう」。
 サウジアラビアは問題の多い国である。大変豊かだと見なされているが、実際はその一人あたりの収入は、絶頂期の28,000ドルから、現在の約8,000ドルの水準まで低下している。社会的、宗教的慣習が近代的な経済活動に適応することをと複雑なものとし、若いサウジ人の雇用の機会を制限してきた。また、女性が教育と雇用を見出すことは厳しく制限されている。
 クリントン大統領は、サウジアラビアについての鋭い分析を我々に提供したNote 20そこでは、基本的に友好的な[サウジの]支配者たちは、現在の体制を維持したいという彼らの願望によって束縛されて来たと主張している。クリントンは、他の人たちと同様、現状維持よりはむしろ現実的な改革を主張した。クリントンが期待していることは、サウジの支配者たちが10年から20年先の彼らの願うサウジの姿を思い描き、またサウジの友好国がその変革を支援し得るプロセスに着手することであった。
 速さと終点は明確でないが、サウジアラビアの王家が政治改革の同意を作ろうと試みている兆しがある。アブドラ皇子は、経済の自由化を促進するため、世界貿易機構[World Trade OrganizationWTO]への加入を望んでいる。彼は「アラブ人類発展報告」を採用した。それはアラブ世界の政治、経済、社会の失敗を鋭く批判し、大幅な政治および経済の改革を求めていた。
 イスラム主義テロリズムに対抗する上でサウジアラビアと協力することは、合衆国にとって大変大きな利益である。このような協力は、今そうであるように、しばらくは厳格な秘密として存在する。だが、それはそのままでは、成長し発展することが出来ないが、双方に無条件の友情が存在すれば、そうではない。
 勧告:合衆国とサウジの間の問題は、公開的に対処されなければならない。合衆国とサウジアラビア双方の政治指導者が ―石油についての関係以上に― 公然と防衛を準備するという関係を作りだすことが出来るかどうかを、決定しなければならない。そこには、サウジが外の世界と共通の目標を作るような、政治的・経済的な改革の一部に参加することも含むべきである。また、より大きな寛容と文化的敬意をもって利益を分け合い、憎しみを煽る暴力的な過激主義者との戦いに参加する立場に変わることを含むものでなければならない。
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12
3 イスラム主義テロリズムの継続的成長の防止
 p.374
  200310月、テロリズムとの世界的戦争の遂行の2年間を振り返って、国防長官ドナルド・ラムズフェルドは彼の顧問(adviser)に尋ねた。「我々は、マドラサや過激な説教者が、我々に対して募兵し、訓練し、配備しているより多くのテロリストを、毎日逮捕し、殺し、制止し、思い止まらせているだろうか? 合衆国はテロリストの次の世代を止める、広い統一的な計画を作り出す必要があるのではないだろうか? 合衆国は長期的な計画については比較的わずかな努力をしているだけだ。しかし、我々はテロリストを止めようと膨大な努力をしている。損益比は我々に不利だ! 我々のコストが数十億[ドル]なのに対して、テロリストのコストは数百万[ドル]だ」。
 これらは正当な疑問だ。我々の答えは、長期戦略の上にある短期の行動が必要だということだ。この答えは、イスラム主義テロリズムと戦う軍隊と情報部門に対して、大統領と議会が与えてきた配慮と共に、我々の対外政策に活力を与えている。
思想の戦いへの参加
 合衆国はムスリム世界と深く関与している。そして、それは今後何年も続くだろう。このアメリカの関与は恨まれている。2002年の世論調査では、アメリカの友好国の間でも、例えばエジプト ―過去20年間で他のいかなるムスリム国家より多く合衆国の援助の受領者であった― でさえ、人口のただの15%しか合衆国に対して友好的な感情を持っていなかった。サウジアラビアではその数は12%だった。そして2003年に調査したインドネシアからトルコ(NATO加盟国)に至る国々では、[人口の]三分の二は合衆国が彼らを攻撃するかもしれないと極度にあるいはある程度恐れていた。
 合衆国に対する支持は急落している。9/11以後イスラム諸国で行われた世論調査では、多くの、あるいはほとんどの人たちが、合衆国はテロリズムに対する戦闘で正しいことをしていると考えていた。アルカイダに対して一般的な支持をするごく僅かな人が見られた。調査された人の半数は、普通の人は合衆国に対して友好的な見方を持っていると言った。2003年の調査は「大部分のムスリム世界で、合衆国支持の底が抜けつつある。これまで中東の国々に限られてきた、合衆国に対する否定的な見方が拡まった。・・・昨年の夏以来、合衆国に対する好感度は、インドネシアでは61%から15%に、ナイジェリアのムスリムの間では71% から38%に落ちている」ことを示した。
 これらの見方をする多くの人々は、良くても合衆国について知らされておらず、最悪の場合は風刺画的な紋切り型や、流行の「西洋文化」の下品な表現が、合衆国の価値と政策を風刺する知識人たちの間に吹き込まれている。地方新聞やいくつかの、影響力のある衛星放送 ―「アルジャジーラ」のような― は、しばしば合衆国を反ムスリムと描きだす聖戦主義者の主張を補強する。
 ウサマ・ビン・ラディンのイスラム解釈に完全に心酔している小さな比率のムスリムは説得を受け付けない。我々が改革と自由、民主、機会について激励しなければならないのは、アラブとムスリムの大多数に対してである。その運搬人が我々[アメリカ人]だという単純な理由によって、これらのメッセージが普及の効果を限られるとしても、我々はそれをしなければならない。ムスリム自身も聖戦の概念や女性の地位、ムスリムでない少数民族の地位などについて考慮しなければならないだろう。合衆国は穏健化を促進できるが、その優位性を保障することはできない。ムスリムだけがそれをすることが出来る。
 その環境は困難である。アラブ連合の22の国の総国家生産の合計額は、スペインのGDPより少ない。アラブの成人の40%は文字が読めない。その3 分の2は女性である。広い中東の3分の1は、一日2ドル以下で生活している。インターネットにアクセスできるのは人口の2%以下である。古いアラブの若者は他の国、特にヨーロッパの国に移住したいと言ってきた。
 要するに合衆国は、人々の特定のグループではなく、ある思想を打ち破ることを助けなければならない。そして我々は困難な状況下でそれを行わなければならない。合衆国とその友人たちは、どのようにして穏健なムスリムが過激派の考えと戦うことを助けられるだろうか。
 勧告:合衆国政府は、メッセージは何か、それが何の役に立つのかを明らかにしなければならない。我々は世界での道徳の指導力の例を提示するべきである。人々を慈悲深く扱う事、法律の規則に従う事、そして隣人に寛大で思いやりがある事などである。アメリカとムスリムの友人たちは、人間の尊厳と向上について合意することが出来る。ムスリムの両親たちにとって、ビン・ラディンのようなテロリスト達は、暴力と死のビジョン以外、なにも彼らの子供たちに提供するものは無い。アメリカとその友人たちは、決定的に優位にある―我々はこれらの両親たちに、彼らの子供たちにより良い未来を与えられるだろうというビジョンを提供することが出来る。もし我々がアラブとムスリムの思慮深い指導者たちの考えを重んじるなら、穏健な合意を見つけることが出来るだろう。
 将来のビジョンは死以上に生を強調するべきである:個人の教育的、経済的向上の機会である。このビジョンは、広い政治参加と、見境のない暴力に対する軽蔑を含む。そこには法律の規則への敬意と、相違についての開かれた討論、異なる考え方についての寛容を含んでいる。
勧告:どこのムスリム政府であっても、たとえそれが友好国であっても、これらの原則を尊重しない場合には、合衆国はより良い未来を擁護する立場に立たなければならない。長い冷戦で学んだことの一つは、もっとも抑圧的で残忍な政府との協力による短期の利益は、アメリカの地位と権益に関する長期の後退をもたらし、しばしば大きな負担となったということである。
  アメリカの外交政策はメッセージの一部である。アメリカの政策選択は結果を生む。良かれ悪しかれ、イスラエル―パレスチナ紛争についてのアメリカの政策が、またイラクにおけるアメリカの行動が、アラブとムスリム世界における一般的な論評の圧倒的な主題であることは単純な事実である。それはアメリカの選択が間違いだったこと意味するわけではない。これらの選択は、アラブとムスリム世界に対するアメリカの向上の機会のメッセージとして統合されねばならない。もし世界的なイスラム主義テロリストが強力になれば、新生イラクのみならずイスラエルでさえも安全であり得ないだろう。
 合衆国はそのメッセージの伝達をさらに進めなければならない。ムスリムの聴衆に達したビン・ラディンの成功を顧みて、リチャード・ホルブルックは疑った。「洞窟にいる男がどのようにして世界を導く通信社会と連絡を取るのだ?」 国務副長官のリチャード・アーミテージは、アメリカ人は我々の向上と希望のビジョンではなく「我々の恐れと怒りを輸出している」のではないかと懸念を示した。
勧告:冷戦時、我々がしていたように、我々は海外で我々の理想を活発に擁護しなければならない。アメリカはその価値のために立ち上がっている。合衆国はソマリア、ボスニア、コソボ、アフガニスタンそしてイラクで、独裁者と犯罪者たちに反対しているムスリムを擁護してきたし、今も擁護している。もし合衆国が、イスラム世界で自らを明きらかにしなければ、過激派たちは我々に対する悪事を喜んでするだろう。
 ・アラブとムスリムの視聴者は、衛星テレビとラジオに依存していることを認識し、政府はアラブ世界、イラ  ンおよびアフガニスタンへのテレビとラジオの放送の画期的で有望な構想を開始している。これらの努力  は多くの聴衆に届き始めている。政府の放送委員会(Boardはさらに大きな財源を求めている。彼らがそ  れを得られるようにするべきである。
・合衆国は、奨学金、交換留学、図書館計画を再建しなければならない。これらを若者に届け、彼らに知識と 希望を提供しなければならない。このような援助が提供される所では、それが合衆国の市民から来ているこ とを明らかにしなければならない。

向上の機会の協議事項 
 合衆国とその友人は、教育と経済の向上の機会を強調することが出来る。国際連合は「自由のための読み書き」として正しく対応してきた。
 国際社会は、具体的なゴール 2010年に中東地域の不識字率を半減する― を設定する方向に動きつつある。それは女性と少女を対象とし、成人の識字プログラムを援助する。
 基礎を支えるため、地道な支援けが必要とされている。世界の多くの知識を地方の言葉に翻訳した教科書や、それらを置く図書館などである。外部の世界や異なる文化についての教育が貧弱である。
 さらに、貿易やビジネスの能力など、職業上の教育が必要とされる。また中東は、すでに世界の他の地域で発達してきたデジタルとの境界を乗り越え、インターネットへの接続を増加するプログラムから利益を得る事ができる。
 寛容と、個々の人間の尊厳と価値、および異なる信仰への尊敬を教える教育が、イスラム・テロリストを取り除くいかなる世界戦略においても、鍵となる要素である。
勧告:合衆国政府は他の国民の寛大な支持と結びついた、新しい「国際青年向上基金」に支援を提供するべきである。基金は、彼等自身の資金を公教育に明確に投資しているムスリム国家で、初等・中等学校の建設と運営に直接使われるだろう。
  経済の開放は本質的である。テロリズムは貧困によって引き起こされるのではない。実際、多くのテロリストは比較的裕福な家庭の出身である。しかし、人々が希望を失ったとき、社会が崩壊したとき、国家が分解したとき、テロリストの養殖場が作られる。遅れた経済政策と抑圧的な政治体制は、希望の無い社会へ滑り込む。そこには野心や情熱の建設的な出口はない。
 経済の発展と改革を支援する政策は、また政治的な影響を持つ。経済の自由と政治の自由はリンクされる傾向がある。商業、特に国際貿易は、継続的な協力と歩み寄り、文化を超えるアイデアの交換、そして合意あるいは法の規則による相違の平和的な解決を必要とする。経済成長は、将来の改革の支持層となる中間階層を広げる。成功する経済は、活気のある個人企業に依存する。それは、でたらめな政府権力の制限に関心がある。自身の経済の運命のコントロールを実施している人たちは、直ちに彼らの共同体と政治社会での発言を望む。
 合衆国政府は「中東自由貿易地域:Middle East Free Trade Area/MEFTA」に対して、作業のゴールを2013年と発表した。合衆国は、もっとも確実にその改革の途上にある中東の国々と、包括的な自由貿易合意(FTAs)の努力を行っている。合衆国―イスラエル間FTA1985年に成立した。また議会はヨルダンとのFTA2001年に実施した。これらの合意は、貿易と投資の拡大を含み, それにより地方経済の改革を支援する。2004年には、モロッコ、バーレーンと新しいFTAsが署名され、議会の承認を待っている。これらのモデルは彼らの隣人たちの興味を引いている。ムスリム国家は規則に基づいた世界貿易方式の完全な当事者となることができる。そのために合衆国はアラブの最貧国との貿易障壁を低くすることを検討している。
勧告:テロリズムに対する合衆国の包括的戦略には、経済政策も含むべきである。それは、発展とより開かれた社会を促進し、また人々が彼らの家族の生活を改善し、彼らの子供たちの将来の可能性を高めることを励ます政策である。

 国家戦略の同盟戦略への転換 
 事実上、合衆国の対テロリズム戦略のあらゆる局面は、国際的協力に依存している。9/11以降、軍事、法執行、情報、旅行および税関、金融問題などに関係する接触は劇的に拡大したが、それはしばしば場当たり的であり、これらの努力を追跡することは困難で、ましてやそれを総合することはできない。
 勧告:合衆国はイスラム主義テロリズムに対抗する包括的同盟戦略の展開に、他の諸国を引き入れるべきである。このような事項を取り扱う、いくつかの多面的な組織がある。しかし最も重要な政策は、指導的な同盟国政府の柔軟な関係グループが討議し、協力することだ。例えば、テロリストの旅行を標的とする統一戦略の開発や、テロリストが保護区とするかもしれない場所から叩き出す共通の戦略を発展させることなどは、その良い場面である。
  現在、ムスリムおよびアラブ諸国はイスラム協議会やアラブ同盟などの組織の中で互いに出会う。西側諸国も、NATOや先進工業国8か国サミット[G8]などの組織の中で互いに会っている。改革についての対話を開始する新しいG8サミットの構想が開始されるだろう。これは、指導的ムスリム国家が、アラブとムスリム世界の将来に関与する指導的な西側勢力との間で、重大な政策問題について公開で討議できる場所を見出す構想である。
 このような新しい国際的取り組みは、その責任を喜んで果たす国々が、援助と協同行動を目指す建設的努力に共に加わる時に、目に見える協力の永続的な習慣を作り出すことが出来る。

 同盟の戦争は、敵の捕虜の扱いについて、同盟の政策を必要とする。合衆国が拘留中の捕虜を虐待したという主張は、政府が必要とする外交、政治、軍事上の同盟の成立を困難にしている。合衆国はその友人[同盟国]と、個々の国の犯罪法が適用されない、捕虜にした国際テロリストの拘留とその人道的取り扱いについて、相互に合意した原則を作り上げる作業を行うべきである。イギリス、オーストラリアおよびムスリムの友人たちの諸国は、テロリストとの戦闘に参加している。アメリカは、同じゴールに向かって関与している国々との間で、人道と安全保障のバランスをいかに取るかの見解を一致させるべきである。合衆国とその同盟国のいくつかは、戦争捕虜についてのジュネーブ協定を、テロリスの捕虜に対して完全に適用することはしない。これらの協定は、内戦の捕虜に対しての最低限の一組の基準を確立している。しかし、イスラム主義テロリストに対する国際的戦闘は、内戦ではない。したがってこれらの条項は正式には適用できない。しかし彼らは通常は人間的な取り扱いの基準によって受け入れられている。
勧告:合衆国は、逮捕されたテロリストの拘留と人道的な取り扱いについて、友人たちと共通の同盟の手法を発展させることに従事するべきである。新しい根本原理は、武装戦闘の法規定であるジュネーブ協定第3章に依拠するものとなるだろう。この章は、通常の戦争法規が適用できなかった場合について、特別に規定された。その最小限の基準は、世界中に慣習的国際法として一般に受け入れられている。

大量破壊兵器の拡散
 
 合衆国内での最も終末的な攻撃は、世界で最も危険なテロリストが、世界で最も危険な兵器を手に入れた時に実現するだろう。第2章に記したように、アルカイダは少なくとも10年にわたり、核兵器の入手あるいは製造を試みてきた。第4章では、1998年、ビン・ラディンの組織の指導者が「ヒロシマ」を実行しようとしているとの報告を懸念して、[合衆国政府]当局者が討議したことを述べた。
 このような野望は続いている。DCIテネットは、20042月の議会に対する世界的脅威の公開評価で、ビン・ラディンは大量破壊兵器の入手は「宗教上の義務」であると考えていたと記している。彼[テネット]は、アルカイダは「核能力を持つという戦略的最終目的を追求し続けている」と警告した。テネットは「他の2ダース以上のテロリスト・グループがCBRN(化学、生物、放射能、核)物質を追求している」と追加した。
 核爆弾は比較的少量の核物質によって作ることが出来る。グレープ・フルーツかオレンジほどの高濃縮ウラニウムまたはプルトニウムを持つ訓練された核技術者がいれば、1993年にラムジ・ユセフがワールド・トレードセンターのガレージに駐車したバンに合うような核物質を組み立てることが出来る。このような爆弾は、マンハッタンを崩壊させるだろう。
 したがって、我々がイスラム主義テロリストと戦うために討議した同盟の戦略は、大量破壊兵器(WMD)の予防と核拡散反対の熱心な努力に、同時進行的に結びつかなければならない。この分野で我々は幾つかの構想を推奨する。

核拡散防止の努力の強化. リビアの不法な核プログラムを停止する努力は、ほぼ成功しつつあるが、パキスタンの科学者 A.Q.カーンが明らかにした、核兵器を拡散しているパキスタンの不法な貿易と核の密輸ネットワークは、地球規模の問題である。イランの核計画を取り扱う試みはなお進行中である。したがて、合衆国は国際社会と共に、法律と国際的な司法権を有する法機構を創設する働きをするべきである。その機構は、その活動を公開しないいかなる国に対しても、逮捕、[輸出入の]差し止め、これら密輸業者の起訴を可能とするものである。
 拡散防止構想の拡張.  20035月、ブッシュ政権は核拡散防止構想(PSI)を発表した:参加に同意した国は、軍隊・経済および外交手段を運用する国家の能力を総合して、WMDおよびミサイル関連技術と懸念される船積みを阻止する。
 PSIはもしNATO同盟の情報および企画の資源を使えれば、より効果的になるだろう。さらに、PSIのメンバーはNATOに加盟していない国にも開放されるべきである。ロシアと中国の参加も推奨されるべきである。
脅威削減共同プログラムの支援.  外部の専門家たちは、今なおロシアと他の旧ソビエト連邦諸国に散らばっている武器と高度に危険な物質の安全な保管について、合衆国政府が関与し交渉を始めることを、強く望んでいる。この分野での政府の主たる道具である脅威削減共同プログラム(通常、1991年に成立した法律の提案者となった上院議員にちなんで、「ナン-ルーガー」プログラムと呼ばれる)を拡大・改良し、資金を供給する必要がある。合衆国政府は、最近この計画を支持する国際的関与を増加した。我々は合衆国が出来ることのすべてを行うことを推奨する。さらに、ロシアと他の国も彼らの役割を演じるかもしれない。政府は、これらの兵器がその獲得を熱望しているテロリストの手に渡った時、アメリカが当面するであろう絶望的なコストに対比して、この投資の価値を計量するべきである。
勧告:我々の報告は、アルカイダが少なくとも10年間、大量破壊兵器を入手するか、製造しようとしてきたことを示している。合衆国が最優先の標的であることに疑問はない。これらの兵器の拡散を阻止することに最大限の努力をすることは当然である ―それは、反拡散の努力を強化し、核拡散阻止構想と脅威削減共同計画を拡大することである。

テロリスト資金を標的とする 
 一般大衆は、テロリスト財政への攻撃は「テロリスト資金を飢餓状態にする」方法によると見なしている。当初、合衆国政府はそのように行った。9/11以降、合衆国は国内および国際連合決議を通じてテロリストの資産家を指名し、その資金を凍結するという、さらに攻撃的な行動をとった。これらの行動の効果は殆んど無いように見え、法律的難問に直面したとき、合衆国と国際連合はしばしば資産の凍結解除を強いられた。 のちに判明した困難は、もし情報社会が、知人や通信によってテロリスト・グループの誰かに「接続」したとしても、その個人からテロリスト・グループへの資金を追跡すること、あるいは共謀者であることを示すことは、はるかに困難だということだ。それは、秘密の開示無しにはさらに困難だった。
 これらの初期の失敗は、他の国を、資産の凍結あるいは単に合衆国の行動を基礎にして動くことを不同意にさせた。多角的凍結方式は、効果が発生するまでの待機期間を必要とする。不意打ちの要素の除去しているため、実際に凍結されるのは僅かな金額であることが確認されている。世界的な資産凍結はこれまで十分実施されたことはない。それは容易に、しばしば1週間以内に、簡単な方法によって迂回されてきた。
 しかし、テロリストの資金を枯渇させる試みは、大洋の水を流し出して一種類の魚を捕まえるようなものだ。初期の数か月以来、政府が、アルカイダがどのように資金を集め、移動し、使うかを多く学んだことにより、さらに良い戦略が発展しつつある。
勧告:テロリストの資金を追跡する厳しい努力は、合衆国のテロリズム対策の努力の正面かつ中心に留まらねばならない。政府は、テロリストの資金に関する情報が、彼らのネットワークを認識し、捜し出し、その作戦を阻止する上で我々を助けている事を理解している。情報と法執行機関は、アルカイダの資金の流れの中心にいる、比較的少数の財務面の推進者 ―資金を集め、分配する彼らの能力にアルカイダが依存している個人― を標的としてきた。これらの努力がなされ、何人かの有力な推進者の死あるいは逮捕は、アルカイダが利用できる資金の額を減らし、また資金の募集と移動のコストを増加させた。逮捕は、崩壊の連鎖継続に活用出来る思いがけない情報を、付随的にもたらした。
 合衆国の金融業界と国際的な金融機構は、法執行機関と情報官庁に並外れた特別な協力を提供してきた。特に捜査の進展を助けるための情報提供を行ってきた。合衆国の金融機構の明らかな脆弱性は修正されつつある。しかし、合衆国は、金融取引の追跡を可能にしたかもしれない金融規制の採用を他国に説得することには、あまり成功してこなかった。 
 テロリストの出資者と組織の公開指名は今なお戦闘の一部であるが、それは最も重要な武器ではない。政府が特定された名前の個人と組織をつなぎ合わせて、テロリストと認めることにより、公開指名は外交上の書式に変わる。それらはまた、公開の募金を防止する。湾岸地区の慈善団体の海外支部の統制にはなお問題を残しているものの、テロリストの資金獲得の手段らしいと認定された幾つかの慈善資金は、彼らの募金を減らしつつあると見られ、その活動はより厳しい監視下に入っている。また他のものは、事業からは撤退しつつある。20035月のリヤドでのテロリストの攻撃以後のサウジの厳しい取り締まりは、アルカイダが使用できる基金を明らかに、おそらく劇的に減らしてきた。しかしこの減少が継続するかどうかを知るにはまだ早すぎる。
  明らかに進展は見られるが、テロリストも彼らの資金移動方法についてかなりの独創性を示しつつある。もしアルカイダがより小さな、中核部分がないテロリスト・グループに置き換えられたら、政府の努力の背後にある前提 ―テロリストは財政支援ネットワークを必要としている― は時代遅れなものとなるかも知れない。さらに、一部のテロリスト作戦は外部の資金源に頼ることなく、合法的な雇用と低レベルの犯罪行為の双方を通じて自己調達されたものになるかも知れない。
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124 テロリストの攻撃に対する防衛と準備   (原文 p.383
  9/11攻撃からほぼ3年たち、アメリカ人はテロリストの攻撃に対してより良く保護されるようになった。変化の一部は、航空機の保護のための新しい警戒策などのような、政府の活動によるものである。一部は正味の支出規模と努力によるものである。広報と一般のアメリカ人の警戒もまた大きな変化を作った。
 アメリカ人はより安全になったが、大統領と他の高官たちは、彼らが安全ではないことを認識している。我々の報告は、テロリストもまた[我々の]防衛について分析していることを示している。彼らもそれに応じて計画する。
 防御によって完全な安全を達成することはできないが、それらは、目標の攻撃成功をより困難にする。そして、捕虜を作り出しそうな攻撃を思い止まらせる。攻撃側の失敗の可能性が増加するにつれて、計画を試みるか放棄するかの差が生じる。敵は、より込み入った計画を作らなければならない。それによって、露出と敗北の危険は増大する。
 また、[防御を]突破した攻撃に対する防衛基準を準備する必要がある。そこには被害と生命の救助が含まれる。
テロリストの旅行 
  毎年5億人を超える人々が合衆国国境の合法的入国地点を通過している。そのうちの約33千万人は[合衆国]市民ではない。このほかに50万人あるいはそれ以上が、審査なく不法にアメリカの数千マイルの国境線を越え、あるいは在留許可の[期限]終了後も国内に残留している。テロリズムの時代における国家安全保障の課題は、合衆国への入国や残留を発見されることなく、壊滅的な危険に対して平然としているごく僅かな人たちを防ぐ事である。
 2001911日の10年前、国境の安全 ―旅行、入国、移住を含む― などは、国家の安全保障に関わる問題とは見なされていなかった。一般の人々は「麻薬との戦争」、移民の適正な水準と種類、南西部国境についての[不法入国]問題、カリブ海その他で発生している移住の危機、あるいは対人交通犯罪の増加などについて語っていた。全体として出入国管理方式は、機能障害を増加しつつあり、改革が必要なほど悪化していると広く認められていた。国家安全保障集団(circle)が重点を置いたのは、大量破壊兵器の密輸のみで、このような兵器を扱うテロリストの入国や、外国生まれのテロリストの共同体の存在ではなかった。
 テロリストにとって、旅行のための書類は武器のように重要である。テロリストは、会合し、訓練し、計画し、目標を偵察し、攻撃目標に接近するために、秘密裡に旅行しなければならない。彼らにとって、国際的な旅行は大きい危険を伴う。なぜなら、彼らは管理された通路を通過し、また自らを国境安全管理官に説明し、あるいは検査ポイントを欺かなければならない。
 彼らの旅行の際、テロリスト達は[危険を]避けるために、多くの手段を使った。変造あるいは偽造したパスポートとビザ、特別の旅行方法やルート、破綻国家の公務連絡官、人間の密輸ネットワーク、下請け旅行会社、移民や偽の人物などである。彼らは時には発見された。
 9/11以前に、テロリストの旅行戦略を組織的に分析した合衆国の官庁はなかった。それを行なったところ、彼らはアルカイダに先行するテロリストたちが、1990年代初めから、組織的だが弱点を見つけ出せる、我々の国境警備を利用してきた方法を発見することが出来た。
 我々は、19名のハイジャック犯のうち15名に、国境管理当局によって阻止される潜在的な弱点があったことを発見した。彼らの旅行書類と旅行パターンの特徴を分析すると、当局は4ないし15名のハイジャック犯を阻止出来たかもしれない。さらに利用可能な合衆国のデータベース情報のより効果的な利用によって、3人のハイジャック犯を特定することが出来ただろう。(Note 32)
 振り返ると、移民法の日常業務が―これらの法律はテロリズムに対する防御を特に目標としてはいないが― アルカイダの計画と機会を必然的に決定して来たことが判る。なぜなら、彼らは自ら主張するような善意の旅行者あるいは学生と考えられていなかったため、五人の陰謀家は我々が知っているようにビザ取得に失敗し、一人は審査官により入国を拒否された。また我々は、移民システムが、個々の人物が誰か、あるいは何を主張しているかを判定する高い障害を設定していることに気付く ―定常の手順が違反行為から守る― それは短期訪問者の条件に合致するとは見えない数人のハイジャッカーを締め出し、連れ出し、さらなる審査に入ることができた。
 我々の調査は、二つのシステム上の弱点によって、その国境警備と移民システムが9/11に対する効果的防御に寄与出来なかったことを示した:国境安全保障の一部となる十分に発達した対テロリズム基準を欠いており、また、移民システムはその基本的責任を/義務を伝える(deliver on)果たすことが出来ず、まして対テロリズムについての支援もなかった。弱点は減少しつつあるが、なお克服されたというには、はるかに遠い。
勧告:彼らの旅行を標的とすることは、彼らの資金を標的とすることと同様、テロリズムに対する武器として少なくとも有力である。合衆国はテロリストの旅行の情報、作戦および法執行を、テロリストを妨害するための戦略の中に統一し、テロリストの旅行の推進者を見出し、テロリストの移動を阻止するべきである。
 9/11以来、国境と法執行の当局がテロリストの名前の情報を利用できるよう、統合された監視リストを作る重要な改善が行われてきた。しかし新しい「国土安全保障省」の中に国境管理官庁を吸収するという実に困難な過程 ―「飛行中にエンジンを交換するようなものだ」とある職員は表現したが― の中で、テロリストの旅行についての新しい見識は、国境の安全保障の最前線にはまだ統合されていない。
 テロリストの小さな旅行の情報収集と、その現在位置の分析プログラムは、思いがけない有効な結果を生み出してきた。それは拡張されなければならない。国境の職員達は、最初に旅行者とその書類に出会い、さらに旅行の推進者を審査するのだから、彼らは情報担当職員と密接に協力して働かなくてはならない。
 国際的にも、合衆国内に於いても、テロリストの旅行の阻止は、対テロリズム戦略の極めて重要な部分となるべきである。テロリストの旅行書類を検出するより良い技術と訓練は、不法入国に対するアメリカの脆弱性を減少するための最も重要な当面のステップである。国境および移民システムのあらゆる段階が、旅行書類上でテロリストの指標を検出する作戦の一部となるべきである。旅行書類が真正であることを判定し、また潜在的なテロリストの指標を検出する情報システムが、領事館、最初の国境検査ライン、移民局オフイス、情報及び法執行機関で使われるべきである。前線にあるすべての職員は訓練を受けなければならない。奉仕活動中の専門家や情報社会と関係している者も同様である。国土安全保障省の情報分析および社会基盤保護担当局長Directorate )は、前線にある国境管理官庁と政府のその他のテロリズム対策社会の橋渡し役としての任務を果たすために、さらに多くの人材を受け取るべきである。
 生物学的数値選別システム 
 人々が国際的に旅行する場合、通常限定された通路や入口を通過する。彼らはパスポートを入手し、またビザを申請するだろう。彼らは、チケット・カウンターやゲート、空港や港の入口で立ち止まり、審査ポイントを通過する。他の飛行機に乗換えるためにはトランジット・ゲートを使う。ひとたび国内に入るや、彼らは別の身分証明書を得て、政府や個人企業に入り込もうと試みたり、残留するために移民の地位の変更を申請するかもしれない。
 これらのチェック・ポイントや入口では選別がある:人々が、自分が何者であるかを説明し、また彼らの述べた目的への行き方を探していることを証明し、認定できる容疑者を阻止し、効果的な行動をとる一つの機会である。   
 防護の仕事はこれらの多くの区分されたチェック・ポイントの間で分担されている。我々は、システムの中の一つのポイントが完全な仕事をするように依存する必要はない。挑戦すべきは、官庁、職務を横断する共通の問題を観察し、効果的な選別システムに関する概念的な枠組み ―建築物のような― を開発することである。
 政府全体で、また実際には、個人企業、法人および商社は、その入り口で安全保障、効率、市民の自由の間のバランスをとる判定にしばしば向き合っている。これらの問題は、その場しのぎの断片的な方法ではなく、系統的に取り扱われるべきである。
例を示す:
どのような情報の提出が個人に要求されるか、またその書式は? 現在取り組みが始められている中で、基本的な問題は、個人の確認に使用される「供給者(feeder)」の書類中に、基準となる情報が不足していることである。生物学的な同定指標は、まさに使われ始めたところである。それには特別の身体的特徴 ―容貌、指紋、虹彩― を測定し、デジタル化できるように減縮し、アルゴリズムと呼ばれる[コンピュータ上の]数値的指標とする。しかし、旅行の履歴は、いまだに記念スタンプと呼ばれる入出国スタンプで、パスポート上に記録されている。これはアルカイダがその工作員に対して、偽造し、彼らのテロリスト活動を秘匿するために教育してきたものである。
 個人とその情報はどのようにチェックされるか? 合衆国内には多くのデータベースが有る。たとえば、テロリスト、犯罪、移民履歴、同様に財産上の情報などである。それぞれは異なる目的で設立され、異なる種類のデータを蓄積し、アクセスには個別の規則がある。アクセスが常に保障されてはいない。外国政府が保有する情報を入手するには、多くの面倒な合意が必要だろう。さらに、記録がデジタル化されていない場合には、検索と分析は困難となる。テロリストの指標の開発は殆ど始まっていない。その行動開始の合図は重要である。
誰が個人を選別するか、そのために彼らは何を訓練されるか? 広い範囲の国境で、出入国管理官および法執行官は、訪問者や移民と出会う。しかし、彼らはテロリストの旅行情報について殆ど訓練されていない。たとえば、不正な旅行書類は、入国拒否された旅行者に、それ以上の検査 ―テロリストの目立った特徴や彼らの出自の調査、法的措置― 無しにそのまま返される。
疑わしい指標の発見の次の手続きは何か、また誰が行動するか? 一つのリスクは、対応が効果的でないかもしれず、あるいはそれ以上の情報を作り出さないかもしれない。9/11攻撃者の4名が入国の二次検査に引き入れられたが、彼らは許可された。19名のハイジャック犯の半数以上が、搭乗しようとした時点で連邦航空局のプロファイリング・システム上に旗[印]を付けて表示されていた。しかしその結果は、人間ではなくバッグの検査だった。競合するリスクとしては「誤った陽性判定」や、不十分な訓練や判定による規則の適用などが含まれる。また過剰な行為は、その個人や我々の経済、正義に対する信頼に高いコストを負わせる。

 ・主観的判定を信頼する重要性についての特別な注意を:合衆国に入ろうとした一人の潜在的ハイジャッカーが、一人の入国審査官によって引き返させられた。審査官は「得点」や機械によって検出されたいかなる客観的要素よりも、質問による直観的経験に頼った。長くこのような任務についてきた善良な人々は、この現象を良く理解している。我々が得た他の証拠は、経験を積んだゲート審査官や保安選別官が質問し、彼らの判定を使うことの重要性を確信させた。これは独断的な追放を勧めるものではない。しかし、いかなる効率的[選別]システムにも、十分訓練された人物の直観や、独自の裁量によるわずかな追加検査や再検査の余地を与えるべきである。

勧告:合衆国の国境安全システムは、我々の交通システムおよび重要な施設への接近、たとえば核反応炉などを含む、選別ポイントの大きなネットワークに統合されるべきである。大統領は、国土安全保障省が包括的な選別システムを設計する努力を主導するよう指示すべきである。そこでは共通の問題を扱い、システム全体の目標を考えながら共通の基準を設定する。このような基準を他の政府にも拡大することにより、破滅的な脅威を引き起こす人物を阻止する、アメリカと世界の総合的な能力を劇的に強化することが出来るであろう。
 我々は、[人種や宗教などによる]カテゴリー的プロファイリングではない選別システムを主張する。選別システムは、特定の、身元確認できる容疑者あるいは危険の指標を探し求める。それは、誰かが危険らしいといった推定作業を含まない。それは、人々が、自分が何者であると言っているかを証明する道具と手段を持っており、特定できる容疑者を阻止し、テロリストの作戦を粉砕する前線の国境審査官を必要とする。
合衆国の国境選別システム  
 合衆国の国境および入国システムは、我々の明瞭な信条である自由と民主主義、世界的経済成長、法律規則などを残さねばならない。しかしテロリズム対策の重要な要素としても、同様に良く役立つものでなければならない。我々が述べてきた方法によるテロリストの旅行についての情報の統合は、直ちに必要なものである。しかし基礎となるシステムは、健全なものでなければならない。 
 9/11以来、合衆国はUSVISITthe United States Visitor and Immigrant Status Indicator Technology program)と呼ばれる選別プログラムの第一段階を構築してきた。それは旅行者から、二つの生物学的数値(biometrics)指標 ―デジタル写真と、二本の指の指紋― を入手する。監視リスト上での検出を避けるため、テロリストによって偽りの身分証明が使われているが、生物測定学的指標は、こういった回避をはるかに困難にする。 
 これまでは、合衆国への旅行にビザを必要とする訪問者のみが対象とされてきたが、「ビザ免除」国からの訪問者もプログラムに追加されるだろう。今年初めには、合衆国の国境を越える非市民[合衆国民以外]全員のただ約12%が相当するのみだろう。さらに、出国データは均一に集められておらず、入国データは完全には自動化されていない。システムが2010年前に設置されるかは明らかではない。しかしこの時間表があまり遅いと、潜在的な安全保障上の危険を与える。
  ・アメリカ人といえども、合衆国に入国する場合、生物学的数値パスポート、あるいは本人であることを確実に証明するものの携帯を免除されるべきではない;カナダ人、メキシコ人もまた同様である。現在、合衆国民は、カナダ、メキシコおよびカリブ海諸国から帰国する場合、パスポートの携帯を免除されている。現在のシステムは、合衆国以外の市民が最小の人物確認で入国することを可能にしている。9/11の経験は、テロリストがアメリカの弱点を学習し、利用していることを示している。
 ・この基準のバランスをとるために、既知の旅行者[の検査]を促進するプログラムには高い優先度を与えるべきである。それにより、審査官はより大きな危険に重点を置くことが許される。通勤客を、最初の旅行者と同じ基準に従わせるべきではない。個人は、その人物を経路の中に確認することで、事前登録が出来るだろう。データベースの情報と他の検査の更新は、前進している信頼性を確実にすることが出来る。更なる検討と開発が必要だが、回答は無線周波数技術(radio frequency technology(*)と生物測定指標の結合に有りそうだ。  
     (*)詳細不明。周波数を上げれば記録容量を上げることが出来るが?(訳者註)
 ・いくつかの頻繁な旅行者のプログラムを含む、現在のつぎはぎの国境選別システムは、一つの統合システムの発展を可能にするために、USVISITに統合されるべきである。その結果として、それは我々が提案しているより広い選別システムの一部となることが出来るだろう。 
 ・個人が、外国から、ビザを得ることなく合衆国を経由して第三国に旅行することを許しているプログラムは、一時停止されてきた。なぜなら「ビザなしトランジット」は、テロリストによって合衆国入国に利用されることが出来るからだ。このプログラムは、トランジット客用領域から、旅行者が不法に空港を出る事を完全に阻止出来ると証明されるまで、復旧されるべきではない。
  9/11ハイジャック犯の入国を決定した審査官は、適当な情報と規則の知識を欠いていた。国境システムのすべての場所 ―領事館から出入国管理事務所まで― で、個人ファイルに適正な電子的アクセスが必要となる。国土安全保障省と国務省に分散されたれたチームが、選別作業とデータの発掘を実施している:それに代わって、国境と交通公務員の政府全域のチームは、共同して働くべきである。現代の国境および出入国管理システムは、生物学的数値測定による出入国システムと、テロリストの旅行の指標を含む、アクセス可能な訪問者と移住者のファイルの結合であるべきだ。
 我々の選別システムは、人々を効率的に検査し、友人を歓迎するものでなければならない。多くの学生、研究者、ビジネスマンを認めることは、我々の経済や文化を活性化し、政治に影響を与える。現在のシステムが合衆国への旅行を混乱させている証拠がある。全体として、ビザの申請は2003年には、2001年より32%以上減っている。中東での申請は約46%減少した。訓練と安全指標の設計は、継続的に整備されるべきである。

勧告:国土安全保障省は、議会に正しく支えられ、出来る限り早く、適正な旅行者の速やかな認定を行う単一システムを含む、生物学的数値による入・出国システムを完成するべきである。それは、合衆国に留まることを求めている外国人に利益を提供するシステムに統合されるべきである。生物学的数値パスポートを、良いデータ・システムと政策決定に結合することが基本的なゴールである。誰もその借金を隠して、少し異なる名前でクレジット・カードを入手することはできない。しかし今日、テロリストは古いパスポートを廃棄し、新しいパスポートの中で少し名前を変えれば、電子的記録との結合を破ることが出来る。
 入出国システムの完成は重要な、また費用のかかる挑戦である。生物測定学は古いコンピュータ環境の中に導入されてきた。このようなシステムの置換えと改良された生物数値学システムが必要となるだろう。それにもかかわらず、資金提供と生物数値学に基礎を置く入出国システムの完成は、我々の国家安全保障にとって基礎的な投資である。
 テロリスト情報の他の国との交換は、プライバシーの要求とは矛盾しない。それと共に紛失および盗難パスポートのリスト化も、直ちに安全保障上の利益となる。我々は発行許可と共に、パスポートの即時承認に移行するべきである。我々の国境から遠く離れたところで選別が行われれば、我々はさらに安全保障上の利益を得る。少なくともある種の選別が、乗客が合衆国に向けて飛び立つ前に行われるべきである。我々は、すべての空港で効果的な検査体制を確立するため、他の国と共に作業するべきである。
 国際社会は、国際民間航空機構(ICAO)を通じて、パスポートのデザインの国際基準に到達している。この個人認証の世界基準はデジタル写真で、指紋は任意である。我々はパスポート基準の改良と変更に手助けを必要とする国に対して援助を提供し、共に働かなければならない。
勧告:合衆国政府は、他国の政府と協力する大きな努力なくして、テロリストの入国を妨げるという、アメリカ国民に対する自己の責務を達成することはできない。我々はさらにテロリストについての情報を、信頼できる同盟国と交換するべきである。そして、中・長期にわたる広範囲な国際協力を通じて、旅行と国境通過について合衆国と世界の国境安全保障の基準を向上しなければならない。
 移民法とその法執行 
 我々の国境管理および移民法は、法執行も含んで、合衆国内の移民社会のメンバーとその出身国に、歓迎と寛容および正義のメッセージを送るべきである。我々は移民社会に手を差し伸べるべきである。良い移民サービスは、情報を含むすべての面で価値のある一つの方法である。
 誰がその国に入ろうとしているかを知ることは、国境安全管理の基礎的な事項である。今日、合衆国内には、900万を超える人々が法的移民システムの外にいる。また我々は、可能な限りカナダおよびメキシコとの共同作業により、入国港[含空港]で、監視と入国の対応が出来るようにしなければならない。
州と地方の法執行機関の役割は増加しつつある。彼らは、テロリスト容疑者の特定について連邦官庁と、より効率的に協力することが出来るようさらに訓練され、連邦官庁と共に働く必要がある。 
9/11ハイジャック犯たちは、一人を除いて何らかの形式の合衆国の身分証明書類を入手した。何人かは不正手段によった。このような身分証明の入手は、彼らが民間航空に搭乗したり、車を借りたり、その他の必要な活動を助けただろう。
勧告:合衆国内で確実な身元確認が開始されるべきである。合衆国政府は出生証明書を基準とし、運転免許証のようなものを身元確認の根拠とするべきである。身元確認の書類偽装はもはや窃盗のような問題ではない。航空機の搭乗ゲートを含む、多くの脆弱な施設の入国地点に於いて、身元確認の根拠は、彼ら自身が何者であると言っているかを確認することと、彼らがテロリストかどうかをチェックする最後の機会である。

 航空と輸送の安全戦略 
 合衆国の輸送システムは、巨大で開放的であり、テロリストの攻撃に対して完全な安全を保つことは不可能である。そこには数百の商用空港、数千の航空機があり、一日数万もの航空便が年間五億人以上の旅客を運んでいる。年間、数百万のコンテナーが300以上の海や川の港を経由して、3.700以上の貨客ターミナルに供給される。約6,000の独立法人がバス、地下鉄、フェリーおよびライト・レールによる運輸サービスを、週日ごとに1,400万のアメリカ人に提供している。
 200111月、議会は「航空および運輸の安全保障法」を通過させ、大統領が署名した。この法律は「運輸安全保障庁:Transportation Security Administration(TSA)」を創り出した。それは現在国土安全保障省の一部となっている。200211月、「国土安全保障法」と「海上運輸安全保障法」がこれに続いた。これらの法律は、新しい庁とTSAがどのように合衆国の運輸分野の危険部門に、安全を提供できるかの戦略的計画の展開を要求した。
 TSAの年間予算、53億ドルの90%以上が航空に ―最後の戦争を戦うために― 使われる。その資金は、主に議会の要求に合わせて安全チェック・ポイントの選別者を連邦職員化する事と、既存のセキュリティー方式と技術を空港に配置することに費やされてきた。現在の取り組みは、まだ資産、危険、コストおよび利益を系統的に分析する先見的な戦略的計画に反映されていない。このような計画に欠けるため、運輸のセキュリティー資源が、最大のリスクに対して、費用効果の高い方法で分配されていると確信することが出来ない。
貨物と一般の航空の中に、なお主要な弱点が存在する。これらは、不適当な選別と[データへの]アクセス規制とあいまって、現在の航空セキュリティーの課題として継続している。
商用航空は可能な標的として残っているが、テロリストは彼らの注意を他のモデルに変更するかもしれない。損害 を与える機会は、海上および陸上の運輸関係で大きい、またはより大きい。海上コンテナーの安全確保の構想は始まったばかりである。鉄道や大量輸送のような地上交通は、大変接近しやすく広大なため、保護が困難なまま残されている。
 議会の[設定した]期限にかかわらず、TSAは輸送部門の統合的戦略計画のみならず、異なる分野 ―空、海、陸上― 別の特別の計画さえ開発できていない。
勧告:限られた資金の配分について、困難な選択がなされなければならない。合衆国政府は、保護されることを必要とする運輸施設を特定してさらに評価し、危険度に基づいてそれらを防衛する優先順位を設定し、そのための最も実際的でコスト効率の良い方法を選定し、その取り組みを実行するための計画、予算、財政措置を進展させなければならない。その計画では、関係諸機関(連邦政府、州、地方、地域)と個人的利害関係者にその役割と任務を割り当てねばならない。効果の測定において、完全であることには到達することは出来ないが、テロリストは、可能性のある標的が防護されていることに気付くに違いない。彼らは失敗の重大な可能性によって思い止まるかもしれない。 

 議会はこれらの計画の完成の特定の日を設定するべきであり、また国土安全保障省とTSAはその完成に責任が有る。
 最も強力な投資は、輸送方式を通じて応用される技術の改善に対するものであろう。例えば、航空機、船舶、トラック、鉄道によって運搬されるコンテナーを鑑別するように設計されたスキャン技術などである。このような技術は実用化されつつあるが、その広範な配備はなお何年か先である。
 その間の最良の防衛の手段は、追加の精密な調査が必要とされる危険度の高いコンテナー、操作員、及び施設についての改良された特定と追跡の方式を、集約された情報の分析、効果的な手順による運輸当局への脅威の情報の通知および運輸当局と公衆による警戒等の更なる努力と結合する事だろう。

層状安全保障システム 
 いかなる単一の安全基準も完全な保障ではない。そのため、TSAは、更に驚異的で危険な形による公共交通機関に対する攻撃を打ち破る、多くのセキュリティーの層を、適切な場所に持たなければならない。
 ・その計画は、敵の取りうるすべての手段を考慮に入れなければならない。すなわち組織内部の者、自殺テロあるいは遠隔操作による攻撃などである。各々の層は、それ自身の権限の中で効果的でなければならない。各々の層は、他の層が余力のある場合には助けられ、互いに協力しなければならない。
 ・TSAは起こり得るテロ攻撃の配置、その場所のセキュリティーの層、各層の信頼度などについて、議会によって承認されなければならない。TSAは、上記の計画の弱い層を改善し、配置された層状システムの効果を発展させなければならない。
  911日、19人のハイジャック犯たちは、コンピュータによって補助された選別方式、CAPPSによって選別を受け、その半数以上が追加の検査に選出された。それは彼らの手荷物の再検査のみだった。
 現在の状況は、航空会社は既知のあるいは疑いのあるテロリストには商用航空の搭乗を停止し、別の二次選別検査を適用するという政府の命令を実施している。「搭乗禁止」および「自動選出者」リストには、合衆国政府が航空機攻撃の直接の脅威を引き起こすと信じている個人だけを含んでいる。
  航空会社はこのプログラムを実施するために、合衆国政府が保管している個人企業や、外国の諜報情報の共有に関与することになる。その諜報情報は、含まれるべきすべてのテロリストと、その疑いのある者をリストアップしたものである。TSAは新しい選別システムが配備された際には、それをCAPPSと置き換えることを計画している。このシステムは、市民の自由を侵す可能性があるとの主張のため、配備が遅れている。
勧告:「搭乗禁止」および「自動選出者」リストの改善された使用は、CAPPSの後継[システム]の論議が続いている間も遅らせるべきでない。この選別機能はTSAによって完成されるべきである。そして、それは連邦政府によって維持されている、より大きな監視リストを利用するべきである。航空会社はこの新しいシステムの試験と実施について、必要な情報を提供することが要求される。

 CAPPSはなお選別方式の一部であり、引き続く個人および手荷物の検査と共に、乗客を特定する方法である。TSAは、他の管庁によって偶然発表される選別結果を取り扱っている。すでに我々が述べたように、これらの選別結果報告の注目レベルは高められ、また政府によって直ちに発表される必要がある。これらの問題の作業は、TSAの選別方式改善の道筋を明らかににすることを助け、また多くの他の官庁を助けるだろう。
 次の層は、選別チェック・クポイント自体である。選別システムが危険人物を止めようとしている時、チェック・ポイントは危険な項目を見つけ出す必要がある。直ちに二点を改善するべきである。
(1)爆発については、手荷物ではなく、人物を選別する。
(2)選別能力を改善する。
勧告:運輸安全保障局(TSA)と議会は、乗客の爆発物の検出について、チェック・ポイントの能力向上に優先的な注意を与えるべきである。そのスタートとして、特別の選別よって選出された個人は、爆発物について選別されるべきである。さらにTSAは人間的要因の調査を実施するべきである。この方法は、しばしば個人企業で使われてきたもので、選別担当者の能力上の問題を理解し、個々の選別者と、選別が行われるチェック・ポイントに達成可能な目標を設定する
  
 検査済のバッグと貨物の選別と輸送にについて、なお不安が残る。[液体]容器入り貨物の爆発によって引き起こされる脅威を減少し、緩和するため、さらなる注意と財源が当てられるべきである。
TSAは、進歩した(
直線状in-line)手荷物選別装置の設置を促進するべきである。航空産業は、その配備から確実な利益を得るだろうから、コストの上で適正な比率を支払うべきである。TSAは、すべての貨物を運ぶ旅客機に、少なくとも百のコンテナーにいかなる疑わしい貨物も配置しないよう、要求しなければならない。またTSAは、空と海、双方の分野で、危険性のある貨物を特定し、追跡し、適正に選別する努力を強化する必要がある。

 
市民の自由の保護
 
 我々の勧告の多くは、政府に対し、我々の生活の中での存在を増加するよう求めている。たとえば身元確認書類の発行についての基準の制定、国境のより良い保全、多くの異なる官庁が集めた情報の共有などである。我々は、また現在 広範囲に分散している情報社会を構成する官庁の統合を勧告した。「愛国者法」は連邦政府に重要な力を与えた。我々は、政府が移民法を対テロリズムの道具として使うのを見てきた。我々の勧告による変化が無くとも、アメリカの人々は、合衆国政府に巨大な権力を与えてきた。
 我々は、2003331日の最初の公聴会において、我々の政府が、現実に継続しているテロリストの攻撃の脅威に対応している時に、バランスを保つ必要がある事に気付いた。テロリストは、我々に対抗するために、我々の開かれた社会を利用してきた。戦時には政府は大きな力を集める。そして戦争が終わると、これらの力の必要性は減少する。この闘争は継続するだろう。したがって、我々の本土を防衛する一方、アメリカ人は生きいきとした個人と市民の自由に対する脅威について、注意深くあるべきだ。このバランスを保つことは容易な仕事ではない。しかし我々はその権利を保つために、常に努力しなければならない。 
 この力と権威の政府への移転は、我々の生活方式の生命である貴重な自由を保護するために、強化されたチェック・アンド・バランスのシステムを必要とする。したがって我々は次の三つの点を勧告する。 
 第一に、我々が十三章で論議するように、非常に多くの官庁と個人部門を横断して、情報を共有する方法を開発するに当たって、大統領は、どの情報をどの官庁が、どのような条件下で共有するかを決定する責任を持つ。この決定において、個人情報の権利の保護は、決定の一つの主要な要素となるべきである。
 勧告:大統領が政府官庁および個人企業部門(sector)を伴う官庁と情報を共有するガイドラインを決定するに当たり、彼[大統領]は情報が共有される個人のプライバシーを保護するべきである。
  第二に、9/11直後に議会は「愛国者法」によって反応した。それは政府の調査官庁に本質的に新しい力を与えた。「愛国者法」の最も論議された問題は、それが2005年末までの期限付き(sunset)法ということだ。この法律の多くの条項は、比較的論議は無い。デジタル時代の技術進歩を反映した、最新のアメリカの監視法である。批判されてきた行政上の行為は「愛国者法」とは関係がない。法律の中の条項は、情報官庁と法執行機関との間の情報共有を促進するもので、それにより情報を有益なものとする。力のバランスが政府の側にシフトしている点について「愛国者法」に関するすべての報じられている討論は健全なものであると我々は考える。
勧告:特定の統治上の力を保持する場合、(a)その力が実際に安全を強化している事(b)行政(executive)がその力を使用するに当たって、市民の自由が確実に保護されている点に適切な監視がある事、などを立証する責任は行政側にある。もしその力が認められるならば、その使用を適正に制限するガイドラインと監視が無ければならない。
  第三に、調査の期間中、我々は、政府の中にその行為を横断的に注視することを業務とする部署は無いと言われた。我々は、自由の問題が適正に考慮されることを保障しようとしている。もし我々が勧告しているように、情報を収集し共有する方法に本質的な変化があるなら、それに関わる行政部門の中に発言権があるべきだろう。多くの官庁は、限定された範囲ではあるが、秘密の事務所を持っている。過去には、大統領海外情報顧問会議の情報監視部会は、情報社会の特定の活動を監視する業務を持っていた。
勧告:政府の権力が増大し強化している現在、行政部門の中に、我々が勧告したガイドラインが堅持されているか、また政府の関与が、我々市民の自由を保護しているかを監視する評議会(board)を置くべきである。
 
 我々は、一方の成功が他方の保護を助けるような
、安全保障と自由の調和の道を見つけなければならない。安全保障か自由かという選択は誤っている。それは本土におけるテロリストの攻撃の成功以上に、アメリカの自由を危険にさらすことになりかねない。我々の歴史は、危険は自由を脅かすことを示してきた。しかし、我々の自由が抑制されるなら、我々はそれを守るために闘ってきた価値を失うことになる。 

     国の準備を優先する
 9/11以前、アメリカ国内を攻撃から守る任務を最優先した行政部門はなかった。それは2002年の「国土安全保障省」の設置によって変わった。この部門は、9/11問題の中で際立った特徴となった問題を主導する責任を持っている。それらは、国境の警備、運輸その他の重要な社会基盤施設の保全、緊急時の援助の組織化、そして民間部門と協力して脆弱性を評価することなどである。
 政府機関の職員たち ―政府首脳から議員たちまで― にとって、優先度をつけて厳しい選択をし、限られた資源を配分することほど困難な問題はなかった。この困難は国土安全保障省を苦しめてきた。多くの議会の監視者により妨害を受けたのだ。我々は、州および地方政府 ―特にニューヨークにおいて― 援助を届ける際の資金配分の不均衡を聞いた。論議は二つの疑問に集約される。    ****
 第一は、危険に直接関係していない[地区に]、どの程度の金額を基準として準備しておくかである。現在、州と地域の援助に割当てられている数十億ドルの大部分は、それぞれの州が一定の額を得るように配分されている。あるいは配分はその人口 ―何処に住んでいようと― に基づいている。 
 勧告:国土安全保障の援助は、危険性と脆弱性の厳密な評価に基づくべきである。2004年現在、ワシントンD.C.とニューヨーク市は、確実にこれらリストの最上位にある。我々は、どの州や市も緊急時の対応に、ある程度の経済基盤を必要とするという主張を理解している。しかし連邦の国土安全保障援助には、一般歳入を配分するような計画を残すべきではない。それは追加の援助に値する危険度と脆弱性に基づき、州と地方の財源に追加されるべきである。議会はこの資金を利益誘導に使うべきではない。
  第二の疑問は、すべての多くの変数を評価する、危険度と脆弱性を計る有効な基準を開発できるのかというものである。基金の配分は危険と脆弱性の評価に基づかなければならない。この評価は、各州について、人口、人口密度、脆弱性および緊急時の経済基盤などの要素を考慮するべきである。これに加えて、連邦政府は、緊急事態準備基金を受け取っている各々の州に、同じ基準に従って、州内での基金の配分を正当化する分析を用意することを要求するべきである。
 金銭上の自由競争の中で、議員たちが、彼らの出身州や地域の利益の保護のために働くだろうことは理解できる。しかしこの支給は、一般的に行われる政治的支出に比べて、あまりに重要である。資源は脆弱性に従って配分されなければならない。我々は、社会の必要性を評価するために、文書化した基準を開発する安全保障のエキスパートの評議会panel)の招集を勧告する。我々は、さらに連邦の本土安全保障基金をこの基準に従って分配することを推奨する。そしてその州は連邦基金の配分についての基準を順守することを要求される。この基準は不完全で主観的ものになるだろう。それは継続して進化するだろう。しかし、困難な選択が行われなければならない。異なる基準で資金を配分しようとする者は、国家の利益にについて彼らの見解を弁明するべきである。
   指令、管理および連絡  
 9/11の攻撃は、もしそれが十分大きなものであれば、たとえ最も強固な緊急対応能力であっても、圧倒されてしまうことを示した。チームワーク、共同作業、現場での協力は、対応の成功に決定的なものである。事件現場の指揮者レベルから選ばれた「かなめ」となる意思決定者は、効果的な対応、資源の有効的な利用、そして対応者の安全確保などを助ける。あらゆる水準での定常的な合同訓練は、実際の事件の際の密接な協力を確保するために欠くことが出来ない。
勧告:全国家レベルの緊急対応官庁は、事故指揮システム(Incident Command SystemICS)を採用するべきである。複数の官庁あるいは複数の司法管轄区が含まれる場合には、統一指揮部(unified command)を採用するべきである。両者は緊急時対応として立証された枠組みである。我々は、ICSと統一指揮部の採用と共に、連邦国土安全保障基金 2004101日まで、不確定要素があるが(*) 提案の採用を強く支持する。将来、国土安全保障省は、ICSと統一指揮部の手順に従った精力的で実際的な訓練への随時の資金提供を考慮するべきである。   (*)報告書発行時点(20047月)で、基金は正式決定されていなかった。(訳註)
 2001911日の攻撃は、ハイジャックされた航空機が墜落した殆どの地区で、管轄区域の対応能力を凌駕した。多くの管轄区は相互援助協定を決めていたが、多数の管轄区の対応に対する深刻な障害は、国家首都地域のような地区での多方面の援助応答者に対する補償金の不足だった。
 公共の安全組織、主任行政官、州の危機管理官庁、および国土安全保障省は、危機対応者のコミュニティー内部に地域の活動センターを発展させ、また複数の管轄区の間の相互の援助協定を発達させるべきである。このような協定が既に存在しているところでは、その条項に従った訓練が望まれる。議会は長期の治療と身体障害に対する補償と、国家首都地域その他国内の適用可能な地域での公共の安全の相互援助の準備を立法化するべきだ
 通信の無能力は、複数の官庁と複数の司法組織が対応していたワールド・トレードセンンター、ペンタゴン、ペンシルバニア州サマーセット郡の各墜落地点において、危機的な要素だった。全く異なる三か所の地域での問題の発生は、地域、州、及び連邦レベルの公共安全機関の間で、整合性のある有能な通信[方式]が重要な課題として残っていることの強い証拠である。
勧告:議会は、保留となっている公共の安全を目的とする無線電話周波数の割り当ての促進と増加を提供する立法を支持すべきである。さらに、ニューヨーク市やワシントンD.C.のような危険性の高い都市部では、市民の組織と地域の第一対応者、及び州軍の間の相互の連絡を確保するための通信隊を設立するべきである。これらの単位に対する連邦予算は議会によって最高の優先度で与えられるべきである。
 
民間企業の準備 
 国土安全保障省の権限は政府内部にとどまるものではない;その部門はまた、民間企業とも準備を確実にするために共に働く責任がある。これは、民間企業が重要な社会施設の85%を管理していることからも、全く妥当なことだ。実際、テロリストの目標が、軍またはその他の防護された政府施設以外の場合、「最初」の第一対応者は、ほとんど確実に民間人だろう。それ故、国土安全保障と国家の準備は、しばしば民間企業と共に始まる。
 民間企業と公共機関の準備においては、救助、活動再開および復旧活動について、(1)避難計画(2)適当な通信能力(3)事業の継続計画の三項目を含むべきである。我々が9/11の緊急対応を調査した際、証人たちは次々と、9/11事件が有ったにもかかわらず、民間企業はテロリスト攻撃に対する準備を殆どしていないと語った。広く受け入れられる民間企業の準備基準が無いことが、この準備不足の主要な原因だと我々は忠告された。
 我々は、アメリカ国家標準協会[American National Standards InstituteANSI]に対して、民間企業との間で「準備の国家基準」について、同意の促進を求めた。ANSIは、民間企業の緊急事態の準備と事業の継続についての基準の必要性を考えるため、広い範囲の産業と協会から、また同様に連邦、州、地域行政府の利害関係者から、安全、セキュリティーおよび事業の継続についてのエキスパートを招いた。
 この会議の結果は、委員会は、ANSIの勧告する、自発的な「国家準備標準」を支持するというものだった。現存する「災害/緊急時の管理および事業継続プログラムについてのアメリカ国家基準」(NFPA1600)に基づいて、提案された「国家準備標準」は、準備、災害管理、危機管理および事業継続計画についての基準と専門用語の共通のセットを制定している。ワールド・トレードセンターでの民間部門の経験は、このような基準の必要性を証明している。
勧告:我々は、アメリカ国家標準協会(ANSI)が勧告している民間の準備に対する基準を支持する。我々は、この基準に対するトム・リッジ国土安全保障省長官の賞賛に勇気付けられた。そして国土安全保障省にその採用を促した。我々はまた、保険と信用格付け産業に、保険の適合性と貸付価値の評価に関するANSIの基準に充分留意して、企業のコンプライアンスを調査することを勧告する。我々はその基準によるコンプライアンスは、企業が法的目標としてその従業員と公衆に対し負っている、管理の基準を定義していると信じる。民間企業の準備は充分なものではない。それ[準備]は9/11以後の社会においてビジネスを行う企業のコストである。それは生命、資金、及び国家安全保障の厖大な潜在的コストに対して、無視される程度の金額である。


第12章 Note

Note.4  20031016日のイスラム・サミットにおける、マレーシアのマハティール首相の発言。

Note 10, Pervez Musharraf,” Washington Post”, June 1, 2004, A23

Note 20. President Clinton meeting (Apr. 8, 2004) : (クリントン元大統領と委員との非公開インタビュー。訳註)

Note 32. ナワフ・アル・ハズミ、サレム・アル・ハズミ、ハリド・アル・ミダルの三名を特定できたとしている。


 

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